訓読 >>>
山鳥(やまどり)の尾ろの初麻(はつを)に鏡(かがみ)懸(か)け唱(とな)ふべみこそ汝(な)に寄そりけめ
要旨 >>>
山鳥の尾のような初麻を鏡を懸けて神様に唱えたからこそ、あなたに身を寄せるようになったのでしょうか。
鑑賞 >>>
難解とされ諸説ある歌ですが、『全注釈』の解釈に従います。「山鳥の」は、山鳥の尾が長いことから「尾」と続き、「初麻(はつを)」にかかる枕詞。「初麻」は、その年に初めて収穫された麻。「唱ふべみこそ」は、唱うべき状態のゆえに。「汝」は、男の代名詞。「けめ」は、過去推量。新嘗祭で新穀を捧げるように、初麻を鏡に懸け、神に感謝する祭りのやり方があったのでしょうか。その効果があって、一緒にいられるようになったと、喜びの気持ちをうたっています。
窪田空穂の解説によれば、「初麻の感謝祭ということは、文献的には証のないものであるが、信仰深い上代生活にあっては、ありうるものと思われるもので、証のないのは、それが普通のことであり、また新甞ほど重大には扱われなかったので、記載される機会がなかったがためで、そうした例は他にも多かろうと思われる。この歌は、山間あるいは山麓の、山鳥などを目にする機会のある部落の女が、部落共同で行なう初麻祭の夜、男と一緒になったということが機縁となって、後に関係が結ばれることになったので、関係の結ばれた後、その関係の成立ちをしみじみと追想し、喜びをもって男にいっている歌である。女の心理として自然なものである」。
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について