大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

玉ならば手にも巻かむを・・・巻第4-729~731

訓読 >>>

729
玉ならば手にも巻(ま)かむをうつせみの世の人なれば手に巻きかたし

730
逢はむ夜(よ)はいつもあらむを何すとかその宵(よひ)逢ひて言(こと)の繁(しげ)きも

731
我(わ)が名はも千名(ちな)の五百名(いほな)に立ちぬとも君が名(な)立たば惜(を)しみこそ泣け

 

要旨 >>>

〈729〉あなたが玉であったなら、緒に通して腕に巻き、肌身離さずいようものを。この世の人だから、手に巻くことは難しい。

〈730〉お逢いできる夜は他にいくらもあったでしょうに、何だってあの晩にお逢いしたのでしょう、ひどく噂が立ってしまったことです。

〈731〉私の名は千も五百も噂になってかまいませんけれど、あなたの名が一度でも立ってしまうと、惜しくて泣くことでしょう。

 

鑑賞 >>>

 大伴坂上大嬢が、大伴家持に贈った歌。729の「うつせみ」は、現身(うつしみ)の転で、現世に生きている身。「うつせみの」は「世」の枕詞。730の「何すとか」は、何の必要があって、どんなつもりで、の意。731の「千名の五百名に」は、噂の激しさを誇張した表現ですが、他の用例がないので大嬢の造語かもしれません。二人が夫婦になることに、何か世間の面目を失う事情があったのでしょうか。