大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

馬ないたく打ちてな行きそ・・・巻第3-263

訓読 >>>

馬ないたく打ちてな行きそ日(け)並べて見ても我(わ)が行く志賀(しが)にあらなくに

 

要旨 >>>

馬をそんなにもひどく鞭打って行くな。何日も見て行ける志賀ではないのだから。

 

鑑賞 >>>

 題詞に「近江の国から都に上り来る時に、刑部垂麻呂(おさかべのたりまろ)が作った」歌とあります。「都」は、藤原京。刑部垂麻呂は、伝未詳。『万葉集』には2首(もう1首は巻第3-427)。「馬ないたく打ちてな行きそ」の「な~そ」は、禁止。「な」を重ねて意を強めていますが、文法上の誤りであるとの指摘もあります。「志賀」は、大津市北部の、近江京があった地。「あらなく」の「なく」は、打消の「な」に「く」を添えて名詞形としたもの。公務を帯びた往来は、その遠近によって日数が令で定められていましたから、作者は、せめて今日だけでも志賀の景色を楽しみたいという心を詠っています。海のない大和国に住んでいた人にとって、近江の湖は強く心を引かれるものであったとみえます。

 

 

 

近江八景

・石山秋月=石山寺大津市

・勢多夕照=瀬田の唐橋大津市

・粟津晴嵐=粟津原(大津市

・矢橋帰帆=矢橋(草津市

・三井晩鐘=三井寺大津市

・唐崎夜雨=唐崎神社(大津市

堅田落雁=浮御堂(大津市

・比良暮雪=比良山系

各巻の概要