訓読 >>>
2876
里(さと)近く家や居(を)るべきこの我(わ)が目の人目をしつつ恋の繁(しげ)けく
2877
何時(いつ)はなも恋ひずありとはあらねどもうたてこのころ恋し繁(しげ)しも
2878
ぬばたまの寐(い)ねてし宵(よひ)の物思(ものも)ひに裂(さ)けにし胸(むね)はやむ時もなし
2879
み空行く名の惜(を)しけくも我(わ)れはなし逢はぬ日まねく年の経(へ)ぬれば
要旨 >>>
〈2876〉里に近い家に住むものではありませんね。人目をはばかって気にしながらでは、いっそう恋心が募るばかりです。
〈2877〉いつも恋しいと思わない時はありませんが、この頃ますます恋い焦がれています。
〈2878〉共寝した夜を思い出しては、張り裂けそうなこの胸の思いは、いっこうに休まる時もない。
〈2879〉空に広がるように世間に評判が立とうとも、私は惜しくはない。逢えない日が重なり年が経ってしまったので。
鑑賞 >>>
「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。2876の「家や居るべき」の「や」は、反語。「家居る」は、住まいする。「人目をしつつ」は、人目を憚りつつの意か。2877の「なも」は、強意の助詞。「うたて」は、ますますひどく。2878の「ぬばたまの」は「夜」の枕詞。「やむ時もなし」は、休まる時もない。女に逢った翌朝、男から贈った、いわゆる後朝の歌。2879の「み空行く」の「み」は、接頭語。「名の惜しけく」は、名の惜しいこと。「まねく」は、多く。
枕詞の用例数
- あしひきの 108
- ぬばたまの 80
- しろたへの 61
- ひさかたの 50
- くさまくら 49
- たまほこの 37
- あらたまの 34
- しきたへの 34
- あをによし 27
- まそかがみ 27
- やすみしし 27
- たらちねの 24
- あまざかる 23
- うつせみの 23
- おほふねの 21
- あづさゆみ 20
- ももしきの 20
- こもりくの 19
- たまきはる 19
- たまのをの 18
- もののふの 18
- たまくしげ 16
- たまだすき 16
- たまづさの 15
- うちなびく 14
- わかくさの 14
- うちひさす 13
- ちはやぶる 13
- あまくもの 12
- いさなとり 12
- あかねさす 11
- たまかぎる 11
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について