訓読 >>>
2337
笹(ささ)の葉にはだれ降り覆(おほ)ひ消(け)なばかも忘れむと言へばまして思ほゆ
2338
霰(あられ)降りいたく風吹き寒き夜(よ)や旗野(はたの)に今夜(こよひ)我(あ)が独り寝む
2339
吉隠(よなばり)の野木(のぎ)に降り覆(おほ)ふ白雪のいちしろくしも恋ひむ我(あ)れかも
2340
一目(ひとめ)見し人に恋ふらく天霧(あまぎ)らし降りくる雪の消(け)ぬべく思ほゆ
要旨 >>>
〈2337〉笹の葉にうっすらと降り積もった雪が消えるように、私も消えられたらあなたのことを忘れられるのに、などと彼女に言われると、ますます彼女がいとしく思われる。
〈2338〉あられが降り、ひどく風が吹く寒々とした今宵、ここ旗野で、私は独りで寝なければならないのか。
〈2339〉吉隠の野の木々に降り積もった白雪のように、恋心をはっきりと表に出す私でしょうか、そんなことありません。
〈2340〉たった一目見ただけの人に恋するのは、空をかき曇らせて降ってくる雪のように、消え入りそうで切ない。
鑑賞 >>>
「雪に寄せる」歌。2337の上2句は「消」を導く序詞。「はだれ」は、薄雪。男の歌とされますが、主語が省かれているため、やや分かりにくく、他の解釈として、「小竹の葉にうっすらと積もる雪が消えてゆくように、私がいなくなれば、私のことなんか忘れてしまうのですよね、などと言うので、いっそういとしく思える」や、4句までを男の言葉だとして、女が歌った歌だとみるものもあります。
2338の「いたく」は、ひどく。「旗野」は、未詳。2339の「吉隠」は、奈良県桜井市吉隠。「野木」は、野の立ち木。上3句は「いちしろく」を導く序詞。「いちしろく」は、はっきりと、明白にの意。「しも」は、強意。「我れかも」の「か」は、反語。2340の「天霧らし」は、空を曇らせて。「天霧らし降りくる雪の」は「消」を導く序詞。