大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

思ひ出づる時はすべなみ豊国の・・・巻第10-2341~2343

訓読 >>>

2341
思ひ出づる時はすべなみ豊国(とよくに)の木綿山(ゆふやま)雪の消ぬべく思ほゆ

2342
夢(いめ)のごと君を相見て天(あま)霧(ぎ)らし降りくる雪の消(け)ぬべく思ほゆ

2343
我(わ)が背子(せこ)が言(こと)うるはしみ出でて行かば裳引(もび)き知らえむ雪な降りそね

 

要旨 >>>

〈2341〉妻を思い出す時は、どうしようもなく、豊国の由布山の雪のように消えてしまいそうに思われる。

〈2342〉あなたにお逢いしたのが夢のようで、天を曇らせて降りくる雪のように、私は消え入りそうです。

〈2343〉あの人の言葉に引かれて、戸口から追って出て行ったら、裳を引きずった跡で人に知られてしまいます。だから雪よ、そんなに降らないで。

 

鑑賞 >>>

 「雪に寄せる」歌。2341の「すべなみ」は、するすべがなく。「豊国の由布山雪の」は「消」を導く序詞。「豊国」は、豊前・豊後の総称で、今の福岡県東部と大分県。「木綿山」は、大分県由布市にある由布岳。「豊国の木綿山雪の」は「消」を導く序詞。官人として京から豊国に赴任している男の旅愁のようです。2342の「天霧らし降りくる雪の」は「消」を導く序詞。2343の「裳引」は、裳の裾が地を曳くさま。「知らえむ」は、人に知られよう。「雪な降りそね」の「な~そ」は禁止、「ね」は願望。訪れた男を迎えに外に出ると、雪の上につく裳の跡で、二人の仲が他人に分かってしまうのを心配しています。

 

 

 

※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について