訓読 >>>
2650
そき板もち葺(ふ)ける板目のあはざらばいかにせむとか我(わ)が寝そめけむ
2651
難波人(なにはひと)葦火(あしひ)焚(た)く屋の煤(す)してあれど己(おの)が妻こそ常(とこ)めづらしき
要旨 >>>
〈2650〉そいだ板で葺いた屋根の板目のように、もしあの人が逢ってくれなくなったらどうするつもりで、私は二人で寝始めたのだろう。
〈2651〉難波の人が葦の火を焚く家のようにすすけているけれど、おれの妻こそはいつまでも可愛い。
鑑賞 >>>
「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」。2650の「そき板」は、木を薄く削いで作った板。上2句は「あはず」を導く序詞。2651の「難波人葦火焚く屋の」について、当時はデルタ地帯であった難波には葦が群生していたため、薪として焚いていました。よく燃えるものの、煙が多く出て家の内が煤(すす)けることから、「煤して」を導く序詞。「めづらし」は「目・連らし」で、見ることを重ねたい、つまり心惹かれる、可愛い意。煤けて年老いたわが妻こそ可愛いという歌で、斎藤茂吉はこの歌を例に挙げ、「万葉の歌は万事写生であるから、たとい平凡のようでも人間の実際が出ている」と評しています。火に寄せての歌。
『万葉集』クイズ
- 『万葉集』の中で、唯一国外で歌を詠んだ歌の作者は?
- 額田王の姉とされているのは誰?
- 額田王が「春秋の優劣を論じた歌」で、最終的に軍配を上げたのは春と秋のどちら?
- 『万葉集』に見られる5・7・7・5・7・7を定型とする歌の形式を何という?
- 壬申の乱での高市皇子の活躍を詠んだ歌の作者は?
- 『万葉集』で女性で2番目に歌の数が多く載っているのは誰?
- 長歌のあとにつけ加えられた「歌い返し」の短歌を何という?
- 『万葉集』に登場する最も古い人物は?
- 「酒を讃える歌」13首を詠んだのは誰?
- 『万葉集』の最終歌の作者は?
【解答】
1.山上憶良 2.鏡王女 3.秋 4.旋頭歌 5.柿本人麻呂 6.笠郎女 7.反歌 8.磐姫皇后 9.大伴旅人 10.大伴家持