訓読 >>>
2652
妹(いも)が髪上げ竹葉野(たかはの)の放(はな)ち駒(ごま)荒(あら)びにけらし逢はなく思へば
2653
馬の音(おと)のとどともすれば松蔭(まつかげ)に出(い)でてぞ見つるけだし君かと
2654
君に恋ひ寐(い)ねぬ朝明(あさけ)に誰(た)が乗れる馬の足(あ)の音(おと)ぞ我(わ)れに聞かする
要旨 >>>
〈2652〉あの子が髪を上げて束ねるに因みある、竹葉野の放ち飼いの馬のように、私への気持ちは離れてしまったらしい、逢ってくれないことを思うと。
〈2653〉馬の音がどどっとするたびに、松蔭に出て行ってそっと様子を窺っています。もしやあなたではないかと。
〈2654〉あなた恋しさに寝られなかった夜明けに、誰が乗っているのか馬の足音がする、この私に聞こえよがしに。
鑑賞 >>>
「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」で、馬に寄せての歌。2652の「妹が髪上げ」の7音は「たかば」と続き、「竹葉野」を導く序詞。「たく」は、髪を束ねる意で、少女が一人前の女になった時にする儀式。「竹葉野」は、所在未詳。「放ち駒」は、綱をはなした馬。上3句は「荒び」を導く序詞。序詞の中に序詞を含むという特殊な形。「荒らぶ」は、心が荒れすさむことで、疎遠になっていく意。
2653の「とど」は、馬の足音の擬音。「けだし」は、もしかして。斎藤茂吉は、この歌について、「女が男を待つ心で何の奇も弄(ろう)しない、つつましい佳(よ)い歌である。そしていろいろと具体的に云っているので、読者にもまたありありと浮んで来るものがあっていい」と言っています。2654の「朝明」は、夜明け方。蹄の音は、早朝に男が女の許から帰るときもので、それを自分の待つ男のよその女の許からの帰りのように感じて怨んでいます。
『万葉集』クイズ
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- 高橋虫麻呂が、その肉体の豊満さを赤裸々に賛美した女性の呼び名は?
- 作者未詳の長歌と反歌ばかりを集めているのは第何巻?
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- 大伴旅人の父の名は?
- 大津皇子が密会したという女性の呼び名は?
【解答】
1.鰻(うなぎ) 2.珠名娘子(たまなおとめ) 3.第13巻 4.第16巻 5.伊勢 6.あしひきの 7.難波 8.3年 9.大伴安麻呂 10.石川郎女