訓読 >>>
2898
ひとり居(ゐ)て恋ふるは苦し玉たすき懸(か)けず忘れむ事(こと)計(はか)りもが
2899
なかなかに黙(もだ)もあらましをあづきなく相(あひ)見そめても我(あ)れは恋ふるか
2900
我妹子(わぎもこ)が笑(ゑ)まひ眉引(まよび)き面影(おもかげ)にかかりてもとな思ほゆるかも
要旨 >>>
〈2898〉ひとりで離れ恋い焦がれているのは苦しくてたまらない。心にもかけず忘れる何かよい方法があればよいのに。
〈2899〉かえって黙っていればよかったものを、不甲斐なくも、見初めて言葉をかけたばっかりに、恋に落ち苦しんでいる。
〈2900〉あの子の笑顔や眉が目の前にちらついて、無性に恋しくて仕方がない。
鑑賞 >>>
「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。2898の「玉たすき」は「懸け」の枕詞。「懸けず」は、心に懸けず。「事計り」は、計画。「もが」は、願望の助詞。2899の「なかなかに」は、かえって。「あづきなく」は、不甲斐なく。「恋ふるか」の「か」は、感動の助詞。2900の「笑まひ」は、笑顔。「眉引き」は、黛(まゆずみ)で三日月形に描いた眉。「もとな」は、わけもなく、無性に。
『万葉集』クイズ
- 東国(あづまのくに)で詠まれた作者名不詳の歌を集めているのは第何巻?
- 「打ち寄する」は何という語の枕詞か?
- 「冬ごもり」は何という語の枕詞か?
- 和歌の修辞法の一つで、譬喩・掛詞・同音の語などを用いて、音やイメージの連想からある語を導くものを何という?
- 「大和三山」といえば、香具山と畝傍山とあと一つは?
- 柿本人麻呂とほぼ同時代の人で、『万葉集』に載っている18首の短歌がすべて大和以外の旅先で詠んだ歌である歌人は?
- 大伴旅人が、歌を添えて琴を贈った相手は誰?
- 「あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり」の歌が詠まれた場所はどこ?
- 『万葉集』の歌で詠まれている「変若(をち)」とは、どういう意味?
- 『万葉集』で最も多く詠まれている山は?
【解答】
1.第14巻 2.駿河 3.春 4.序詞 5.耳成山(みみなしやま) 6.高市黒人 7.藤原房前 8.大宰府 9.若返ること 10.筑波山
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について