訓読 >>>
2921
幼婦(をとめご)は同じ情(こころ)にしましくも止(や)む時も無く見むとぞ思ふ
2922
夕(ゆふ)さらば君に逢(あ)はむと思へこそ日の暮るらくも嬉(うれ)しくありけれ
2923
ただ今日(けふ)も君には逢はめど人言(ひとごと)を繁(しげ)み逢はずて恋ひわたるかも
2924
世の中に恋(こひ)繁(しげ)けむと思はねば君が手本(たもと)をまかぬ夜(よ)もありき
要旨 >>>
〈2921〉幼婦の私だって、あなたと同じで、しばらくも休むことなく、絶えずあなたとお逢いしたいと思っています。
〈2922〉夕方になるとあなたにお逢いできると思えばこそ、日が暮れるのも嬉しく思います。
〈2923〉今日すぐにでもあなたにお逢いしたいと思うけれど、人の噂がうるさいので、お逢いせずにいつまでも焦がれ続けているのです
〈2924〉人の世で、恋の苦しみがこんなに募るものだとは思わなかったので、あなたと共寝をしない夜もあった。
鑑賞 >>>
「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。2921の「幼婦」について斎藤茂吉は、これは「わたくしは」というのと同じだが、客観的に「幼婦は」というのにかえって親しみがあるようであり、「幼婦」というからこの歌がおもしろい、と言っています。「同じ情」は、変わらない心と解するものもあります。「しましくも」は、しばらくの間も。2922の「夕さらば」は、夕方になると。「暮るらく」は「暮る」のク語法で、名詞化したもの。2923の「ただ」は、ただちに。2924は、女が旅にある男を思う歌、あるいは故人を対象にした歌のようです。
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について