訓読 >>>
2992
玉たすき懸(か)けねば苦し懸けたれば継(つ)ぎて見まくの欲しき君かも
2993
紫のまだらのかづら花やかに今日(けふ)見し人に後(のち)恋ひむかも
2994
玉縵(たまかづら)懸(か)けぬ時なく恋ふれども何しか妹(いも)に逢ふ時もなき
要旨 >>>
〈2992〉声をかけねば苦しくてたまらない。声をかけたらかけたで続けて逢いたくなるあなたです。
〈2993〉紫色にまだらに染めた縵(かずら)のように花やかに、今日見かけたあの人に、後になって恋い焦がれるだろうな。
〈2994〉心に懸けて思わない時はなく恋い焦がれているけれど、どうしてあの子に逢う時もないのだろうか。
鑑賞 >>>
「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」。2992は、たすきに寄せての歌。「玉たすき」の「玉」は美称で、意味で「懸く」に掛かる枕詞。「懸けねば」「懸けたれば」はそれぞれ、心に懸けなければ、心に懸けて思えば、と解するものもあります。「見まく」は「見む」のク語法で名詞形。2993・2994は、かづらに寄せての歌。「かづら」は、蔓性植物で作った髪飾りとされます。2993の「紫」は、ここでは初め色のこと。上2句は「花やかに」を導く序詞。2994の「玉縵」の「玉」は美称で、「懸く」の枕詞。「懸く」は、心に懸ける。「いかにか」は、どうしてであろうか。
『万葉集』クイズ
次の歌の作者は誰?
- 秋の野のみ草刈り葺き宿れりし宇治の宮処の仮廬し思ほゆ
- 香具山と耳梨山と会ひしとき立ちて見に来し印南国原
- 阿騎の野に宿る旅人うちなびき寐も寝らめやも古おもふに
- 采女の袖吹きかへす明日香風都を遠みいたづらに吹く
- いづくにか船泊すらむ安礼の埼漕ぎたみ行きし棚無し小舟
- 霰打つ安良礼松原住吉の弟日娘と見れど飽かぬかも
- み吉野の山の下風の寒けくにはたや今夜も我が独り寝む
- 水鳥の鴨の羽色の春山のおほつかなくも思ほゆるかも
- みさご居る磯廻に生ふるなのりその名は告らしてよ親は知るとも
- 磐代の浜松が枝を引き結びま幸くあらばまた還り見む
【解答】
1.額田王 2.中大兄皇子 3.柿本人麻呂 4.志貴皇子 5.高市黒人 6.長皇子 7.文武天皇 8.笠郎女 9.山部赤人 10.有馬皇子
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