大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

海人小舟泊瀬の山に降る雪の・・・巻第10-2347~2350

訓読 >>>

2347
海人小舟(あまをぶね)泊瀬(はつせ)の山に降る雪の日(け)長く恋ひし君が音(おと)ぞする

2348
和射見(わざみ)の嶺(みね)行き過ぎて降る雪の厭(いと)ひもなしと申(まを)せその子に

2349
我(わ)が宿(やど)に咲きたる梅を月夜(つくよ)よみ宵々(よひよひ)見せむ君をこそ待て

2350
あしひきの山のあらしは吹かねども君なき宵(よひ)は予(かね)て寒しも

 

要旨 >>>

〈2347〉泊瀬の山に雪が降り続くように、日々長く恋い焦がれてきたあの人の、いらっしゃる音がする。

〈2348〉和射見の嶺を過ぎて降る雪にあう、そんな苦労も厭わしいなどとは思っていないと、あの子に告げてほしい。

〈2349〉我が家の庭に咲いている梅の花を、月がよいころなので、毎晩お見せしたいとあなたをお待ちしていることです。

〈2350〉山おろしの風は吹いてはいませんが、あなたがいらっしゃらない夜は、寝る前から寒いことです。

 

鑑賞 >>>

 2347~2348は「雪に寄せる」歌。2346の「うかねらふ」は、狩をする時に野獣の姿を窺い狙う意で、その足跡を見ることから「跡見」の枕詞。「跡見山」は、桜井市の鳥見山かといいます。上2句は「いちしろく」を導く序詞。2347の「海人小舟」は泊(は)つと続けて「泊瀬」の枕詞。上3句は「消」を導く序詞。「君が音」は、君が来る物音で、乗馬の音か。2348の「和射見」は、岐阜県関ケ原。上3句は「厭ひ」を導く序詞。雪の日に女の許へやって来た男が、仲介の人へ取次ぎを頼んでいる歌です。

 2349は「花に寄せる」歌。「月夜よみ」は、月が美しいので。特定の人に向けてではなく、「毎晩でも見せてあげられる、そんな人がほしい」と言っているともとれます。2350は「夜に寄せる」歌。「あしひきの」は「山」の枕詞。「かねて」は、前もって、寝る前から。冬の夜寒の頃、山裾に住んでいる女が、その夫に贈った歌であり、窪田空穂は、「『君なき宵は予て」という言い方は、眼前を捉えて、さりげなくいった形で、巧みな訴え方である」と述べています。

 

 

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