訓読 >>>
2655
紅(くれなゐ)の裾(すそ)引く道を中に置きて我(わ)れは通はむ君か来まさむ [一云 裾漬く川を][ 又曰 待ちにか待たむ]
2656
天(あま)飛ぶや軽(かる)の社(やしろ)の斎(いは)ひ槻(つき)幾代(いくよ)まであらむ隠(こも)り妻(づま)ぞも
要旨 >>>
〈2655〉紅色の裳裾を引いて歩く道を隔てて離れているので、私が通いましょうか、それともあなたが来て下さいますか。(裳の裾を濡らす川を)(それとも待ち続けましょうか)
〈2656〉天を飛ぶ軽の社の槻の神木のように、いつまでこうして隠し妻にしておかなければならないのだろうか。
鑑賞 >>>
「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」で、2655は、道に寄せての歌。「紅の裾引く道」は、紅い裳を着た女性が行き交うような、歩きやすく賑やかな大通りのこと。「中に置きて」は、隔てにして。つまり険しい山道や川を隔てているわけではないので、通おうと思えばたやすいはずと言って、相手の訪問を催促している歌です。
2656は、神に寄せての歌。「天飛ぶや」は、雁を古くは軽ともいったので、「軽」の枕詞。「軽の社」は、軽にある社。「軽」は、奈良県橿原市の近鉄橿原神宮前駅から岡寺駅にかけての一帯。「斎ひ槻」は、人に触れさせないように囲いをしてある欅(けやき)で、人目を忍んで逢う隠妻を譬えています。上3句は「幾代」を導く序詞。
『万葉集』クイズ
- 大伴家持が、痩せた友人に「夏痩せに効くから食べなさい」といって勧めた魚は?
- 高橋虫麻呂が、その肉体の豊満さを赤裸々に賛美した女性の呼び名は?
- 作者未詳の長歌と反歌ばかりを集めているのは第何巻?
- 伝説的な歌やこっけいな歌などを集めているのは第何巻?
- 「神風の」は何という語にかかる枕詞?
- 『万葉集』で最も多く用いられている枕詞は?
- 防人たちが筑紫に向けて出航した港は?
- 防人の任期は何年と定められていた?
- 大伴旅人の父の名は?
- 大津皇子が密会したという女性の呼び名は?
【解答】
1.鰻(うなぎ) 2.珠名娘子(たまなおとめ) 3.第13巻 4.第16巻 5.伊勢 6.あしひきの 7.難波 8.3年 9.大伴安麻呂 10.石川郎女