大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

東歌(62)・・・巻第14-3414

訓読 >>>

伊香保(いかほ)ろの八尺(やさか)の堰塞(ゐで)に立つ虹(のじ)の現(あら)はろまでもさ寝(ね)をさ寝てば

 

要旨 >>>

伊香保の八尺の堰(せき)に立つ虹のように、はっきり見えるくらいに明るくなるまで、一緒に共寝できたらなあ。

 

鑑賞 >>>

 上野(かみつけの)の国の歌。「伊香保ろ」の「伊香保」は、群馬県のほぼ中央部に位置する榛名山、「ろ」は接尾語。ここは、榛名山というより、その山麓地帯。「八尺」は、大きい、長いこと。地名とする説もあります。「堰塞」は、水を堰き止めてあるところ。「虹(のじ)」は「虹(にじ)」の東語。虹は、中国の『詩経』では邪淫のものとされていたため、それが継承され、上代の人々にとっても忌み憚られるものだったようです。また、蛇神の顕現として畏怖の対象とされていたことから、ここでは、神的なものが目に見える形で現れ出ることを意味する「立つ」という言葉が使われています。「虹」を詠った歌は『万葉集』中ではこの1首のみです。上3句は、虹が鮮やかに現れるところから、「現はろ」を導く譬喩式序詞。「現はろ」は「あらわる」の東語。「まで」は、~ほどに、~くらいにの意を表す副助詞。上掲の解釈とは別に、「人目につくほどに」と解するものもあります。「さ寝をさ寝てば」の「さ」は接頭語で、寝るだけ寝られたならば。

 

 

『万葉集』掲載歌の索引

「東歌」について