訓読 >>>
遠くありて雲居(くもゐ)に見ゆる妹(いも)が家に早く至らむ歩(あゆ)め黒駒(くろこま)
要旨 >>>
遠くにあって雲の彼方にあるとも見える愛しい妻の家、あの家にに早く着きたい。しっかり歩め、黒駒よ。
鑑賞 >>>
『柿本人麻呂歌集』から1首。「行路」と題しており、「路を行く」と訓んで、妻の家に行く道の途中の思いを述べた歌と見えます。「雲居」は、雲のかかっているところ、雲。「雲居に見ゆる」は、写実的な実景というより、「早く至らむ」という、馬の歩みすらもどかしく思う心理からの表現とされます。「歩め黒駒」は、歩めよ黒駒よ、と乗馬に命じたもの。黒駒は、黒毛の馬。
なお、巻第14-3441に、同じ『柿本人麻呂歌集』の歌として、「ま遠くの雲居に見ゆる妹が家にいつか至らむ歩め我が駒」があります。巻第14は東国の歌(東歌)を集めた巻であり、『人麻呂歌集』が東国の歌も収めているということなのか、あるいは同歌集の歌が東国にまで流布していたのかは分かりません。
『万葉集』クイズ
次の歌の作者は誰?
- 川上のつらつら椿つらつらに見れども飽かず巨勢の春野は
- 東の野に炎の立つ見えてかへり見すれば月傾きぬ
- ますらをの鞆の音すなり物部の大臣楯立つらしも
- 玉櫛笥覆ふを易み明けていなば君が名はあれど吾が名し惜しも
- 田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ不尽の高嶺に雪は降りける
- 恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くしてよ長くと思はば
- 銀も金も玉も何せむに勝れる宝子に及かめやも
- 葦屋の菟原処女の奥津城を行き来と見れば哭のみし泣かゆ
- 思ふにし死にするものにあらませば千たびぞ我れは死に返らまし
- ももづたふ磐余の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ
【解答】
1.春日蔵首老 2.柿本人麻呂 3.元明天皇 4.鏡王女 5.山部赤人 6.大伴坂上郎女 7.山上憶良 8.高橋虫麻呂 9.笠郎女 10.大津皇子
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