訓読 >>>
990
茂岡(しげをか)に神(かむ)さび立ちて栄えたる千代松(ちよまつ)の木(き)の年の知らなく
991
石走(いはばし)りたぎち流るる泊瀬川(はつせがは)絶ゆることなくまたも来て見む
要旨 >>>
〈990〉茂岡に神々しく立って茂り栄えている千代松が何歳になるのか、見当もつかない。
〈991〉岩の上を激しくほとばしり流れ続ける泊瀬川、絶えることなくまたやってきて見よう。
鑑賞 >>>
紀鹿人(きのかひと)の歌。紀鹿人は、大伴家持の恋人だった紀女郎(巻第4-643~645)の父。天平12年(740年)に外従五位上。『万葉集』には3首。990は、「跡見(とみ)の茂岡の松の樹」の歌。「跡見」は、桜井市東方の地。巻第8-1560に大伴坂上郎女の「跡見田庄にて作れる歌」があり、大伴氏の領地であったと知られる地です。「茂岡」は、木々の茂る岡、または地名。「神さび」は、神々しく。「千代松」の「千代」は千年で、松の樹齢とされていました。「知らなく」は、知られないことよ。尊い老末に寄せて大伴氏を祝ったものかもしれません。
991は、「泊瀬川の河辺に来て作った」歌。「泊瀬川」は、桜井市の東方、初瀬渓谷に発し、三輪山の南を流れ、佐保川に合流するまでの川。「石走り」は、石の上や石の間を走って。「たぎち流るる」は、激しく流れる。「絶ゆることなく」は、「泊瀬川」と「またも来て見む」の両方に掛かっています。