訓読 >>>
かくしつつ在(あ)らくを良(よ)みぞたまきはる短き命(いのち)を長く欲(ほ)りする
要旨 >>>
こうしているのが楽しいからこそ、短い命であっても、少しでも長く続いてほしいと願うのだ。
鑑賞 >>>
中納言・安倍広庭(あべのひろには)卿の歌。安倍広庭は、右大臣・阿倍御主人(あべのみうし)の子。聖武天皇即位の前後に従三位に叙せられ、神亀4年(727年)に中納言に任ぜられた人で、長屋王政権下で順調に昇進を果たしました。旧豪族として、至難な人生であったと推定されるものの、終始藤原氏と政治的行動を共にした人であったようです。天平4年(732年)2月に74歳で死去。『万葉集』には4首の歌があります。
この歌は、宴席での駕の歌とされます。「かくしつつ」は、このようにして。「かく」が何を指すのか不明ですが、酒宴のたのしさを、人の命の短さを惜しむ心に結びつけて言っていると見るのが自然です。「在らく」は「在る」のク語法で名詞形にしたもの。「良み」は、形容詞「良し」の語幹に「み」のついたミ語法。良いので。「たまきはる」は、霊(霊力・生命力)が極まる意で「命」にかかる枕詞。「欲りする」は、動詞「欲り」と「する」が結合した語で、上の「ぞ」の係り結び(連体形)。
係り結び
文中に「ぞ・なむ・や・か・こそ」など、特定の係助詞が上にあるとき、文末の語が終止形以外の活用形になる約束ごと。係り結びは、内容を強調したり疑問や反語をあらわしたりするときに用いられます。
①「ぞ」「なむ」・・・強調の係助詞
⇒ 文末は連体形
例:~となむいひける
②「や」「か」・・・疑問・反語の係助詞
⇒ 文末は連体形
例:~やある
③「こそ」・・・強調の係助詞
⇒ 文末は已然形
例:~とこそ聞こえけれ
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について