訓読 >>>
3870
紫(むらさき)の粉潟(こかた)の海に潜(かづ)く鳥(とり)玉潜き出(で)ば我(わ)が玉にせむ
3871
角島(つのしま)の瀬戸(せと)のわかめは人のむた荒かりしかど我(わ)れとは和海藻(にきめ)
要旨 >>>
〈3870〉粉潟(こがた)の海に潜ってあさる鳥が、真珠をくわえて出てきたら、それは私の玉にしてしまおう。
〈3871〉角島の瀬戸のわかめは、人の前では荒々しいけれど、私の前では柔らかいわかめ。
鑑賞 >>>
3870の「紫の」は「粉潟」の枕詞。紫はその根を粉末にして染料にするので、その粉の意か。「粉潟」は所在未詳ながら、巻第12-3166に「越の海の子難(こがた)の海の島ならなくに」とあるので、越の海のどこかではないかとされます。「潜く鳥」は、餌をとるために海に潜る鳥。「玉」は真珠で、女性の比喩。中央官人の旅の歌かもしれません。
3871の「角島」は、山口県の西北端にある島で、牛の角のように2つの岬が突き出ているところから、この名が付いたとされます。『延喜式』に「角島牛牧」とあって官牧が行われたところです。「瀬戸」は、狭い海峡。「わかめ」は、ワカメと若妻を掛けています。「人のむた」は、人と共にあれば。「荒かりしかど」は、食べての舌触りが荒かったことに、態度が荒々しかったことを喩えています。「和海藻」は、柔らかい海藻、ワカメ。角島に住んでいる男が、土地の若い娘を得ようとして他の男たちと競い、我がものとしたのを喜んでいる歌です。
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