大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

牛窓の波の潮騒島響み・・・巻第11-2730~2731

訓読 >>>

2730
紀伊(き)の海の名高(なたか)の浦に寄する波(なみ)音高(おとだか)きかも逢はぬ子ゆゑに

2731
牛窓(うしまど)の波の潮騒(しほさひ)島(しま)響(とよ)み寄(よ)そりし君に逢はずかもあらむ

 

要旨 >>>

〈2730〉紀伊の名高の浦に打ち寄せる波のように、音高く世間が二人の噂をする。逢ってもいないあの子なのに。

〈2731〉牛窓潮騒が島に鳴り響くように、私との噂を立てられたあの方に、逢えないだろうか、逢いたい。

 

鑑賞 >>>

 「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」。2730の上3句は「音高き」を導く序詞。「名高の浦」は、和歌山県海南市名高の海。「音高きかも」の「音」は噂の意、「かも」は詠嘆で、関係しているとの噂の高いことであるよ。嘆きの歌ではありますが、むしろ明るく、楽しげでもあります。

 2731の「牛窓」は、岡山県邑久郡牛窓。古来、備前海上の一水駅として栄えました。上3句は「寄そりし」を導く序詞。「寄そりし君」は、関係があるかのように噂されたあなた。「かも」は、疑問。別の解釈として、仲介者によって婚約したにも拘わらず、妻問いをしない男に対しての訝りと不安をいっている女の歌とする説もあります。文学者の犬養孝は、「あるいは港の遊行女婦(うかれめ)などにうたわれた歌かもしれない。潮騒どきの牛窓の海景とよくむすびついた歌だ」と述べています。

 

 

『万葉集』掲載歌の索引

【為ご参考】三大歌集の比較