大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

朝に日に見まく欲りする・・・巻第3-403

訓読 >>>

朝に日(ひ)に見まく欲(ほ)りするその玉をいかにせばかも手ゆ離(か)れずあらむ

 

要旨 >>>

朝も昼もいつも見ていたいと思うその玉なのに、いったいどうしたら手から離れることのないようにできるだろう。

 

鑑賞 >>>

 大伴家持が、坂上家の大嬢(おほいらつめ)に贈った歌。「坂上家の大嬢」は、大伴宿奈麻呂坂上郎女との子で、家持の従妹にあたり、後に家持の妻となった人です。「朝に日に」は、日々に、いつも。「見まく」は「見む」のク語法で名詞形。「欲りする」は、欲する、したい。「玉」は、大嬢を譬えたもの。「如何にせばかも」の「かも」は、疑問。「手ゆ離れず」の「ゆ」は、起点・経由点を示す格助詞で、手から離れず。「あらむ」「む」は推量の助動詞の連体形で、上の「か」の係り結び。

 この歌は『万葉集』に出てくる家持の歌としては最初のものです。笠郎女に対しては冷たい態度をとっていた家持ですが、大嬢にはご執心だったようで、朝も昼も見ていたい玉を、大嬢に喩えています。家持の歌が上達するのは、これよりしばらく後のことで、若き日の初々しい1首となっています。これに大嬢が答えた歌はありません。

 ところで、「大嬢(おほいらつめ)」とは同母姉妹の中での長女のことを言います。坂上郎女は大伴宿奈麻呂との間に2人の娘をもうけましたが、その長女を「大嬢」と言い、次女を「二嬢(おといらつめ)」と言います。宿奈麻呂は先妻との間に田村大嬢をもうけており、田村大嬢にも「大嬢」とあるのは、先妻との間に生まれた長女だったからです。そして、この田村大嬢の方が坂上大嬢より先に生まれていることが、巻第4-756の題詞「大伴の田村家の大嬢、妹(いもひと)坂上大嬢に贈る歌」によって分かります。

 

 

※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について

大伴家持の歌(索引)