訓読 >>>
我妹子(わぎもこ)を早見(はやみ)浜風(はまかぜ)大和なる我まつ椿(つばき)吹かざるなゆめ
要旨 >>>
早く愛しい妻に逢いたいと、浜に吹く早風よ、大和で私を待つ松や椿に、この思いを伝えてくれないなんてことがないように。
鑑賞 >>>
長皇子(ながのみこ)が、文武天皇の難波行幸に従駕した時の歌。「早見」は、地名(住吉あたりか)または形容詞の連体形「早み」。妻を早く見たい意との掛詞になっています。「大和なる」は、大和にある。「まつ」は「松」と「待つ」の掛詞になっています。「吹かざるなゆめ」の「な」は禁止、「ゆめ」は、決して。『万葉集』にはこのように、旅先にあって家の妻を思う歌が数多くみられますが、妻との心のつながりを歌うことによって、旅先での厄災から身を守ろうとする意図が込められているとされます。
長皇子は天武天皇の第4皇子で、母は天智天皇の娘の大江皇女。また弓削皇子の異母兄にあたります。『万葉集』には5首の歌が載っています。子女には栗栖王・長田王・智努王・邑知王・智努女王・広瀬女王らがおり、また『小倉百人一首』の歌人の文屋康秀とその子の文屋朝康は、それぞれ5代、6代目の子孫にあたります。
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