大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

佐保川の川波立たず・・・巻第12-3010~3012

訓読 >>>

3010
佐保川(さほがは)の川波(かはなみ)立たず静けくも君にたぐひて明日さへもがも

3011
我妹子(わぎもこ)に衣(ころも)春日(かすが)の宜寸川(よしきがは)よしもあらぬか妹(いも)が目を見む

3012
との曇(ぐも)り雨(あめ)布留川(ふるかは)のさざれ波(なみ)間(ま)なくも君は思ほゆるかも

 

要旨 >>>

〈3010〉佐保川に波が立たず静かなように、私もあなたに心静かに寄り添っていたい、明日の日も。

〈3011〉愛しい人に着物を貸すではないが、その春日の吉城川で、愛しい人の顔を見る手掛かりがないだろうか。

〈3012〉一面にかき曇って雨が降る、その布留川のさざ波のように、絶え間なくあなたのことを思っています。

 

鑑賞 >>>

 「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」で、川に寄せての歌。3010の上2句は「静けく」を導く序詞。「佐保川」は、奈良市大和郡山市を流れる川。「たぐひて」は、寄り添って。「もがも」は、願望。3011の「衣」までの8音は「いとしい女に衣を貸す」で、地名の「春日」を導く序詞。上3句は「宜寸川」の同音で「よし」を導く序詞で、序詞の中に序詞を含んでいます。「宜寸川」は、春日山に発し佐保川に合流する吉城川。

 3012の「との曇り雨」の7音は「布留川」を導く序詞。上3句は「間なくも」を導く序詞で、こちらも序詞の中に序詞を含んでいます。「布留川」は天理市布留町付近を流れ、大和川に合流する川。3013の「忘らすな」は、敬語。「石上袖布留川の」は「絶えむと思へや」を導く序詞。「石上」は、奈良県天理市石上神宮西方一帯の地。「布留」と「振る」を掛けています。「思へや」の「や」は、反語。

 

 

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