訓読 >>>
3141
草枕(くさまくら)旅の悲しくあるなへに妹(いも)を相(あひ)見て後(のち)恋ひむかも
3142
国遠み直(ただ)には逢はず夢(いめ)にだに我(わ)れに見えこそ逢はむ日までに
3143
かく恋ひむものと知りせば我妹子(わぎもこ)に言(こと)問はましを今し悔(くや)しも
要旨 >>>
〈3141〉旅は悲しいうえに、あの子に出会ってから後は、恋の辛さが加わることだ。
〈3142〉故郷が遠くてじかには逢えないが、せめて夢にだけでも、私に姿を見せてくれないか、再びめぐり逢える日まで。
〈3143〉こんなに恋しくなるものと分かっていたら、愛しいあの子にもっと言葉をかけてくるのだったのに、今となっては悔やまれる。
鑑賞 >>>
「羈旅発思(旅にあって思いを発した歌)」。3141は、旅先で一夜を共にした遊行女婦との別れをうたった歌。「草枕」は、草を枕に寝る意で「旅」に掛かる枕詞。「なへに」は、と同時に。「かも」は、疑問。3142は、地方に赴任している男が、郷里の妻に贈った歌。「国遠み」の「遠み」は「遠し」のミ語法で、故郷が遠いので。「見えこそ」の「こそ」は、願望の助詞。3143は、遊行女婦についてうたった歌、あるいは旅立ち前に妻に逢えなかった嘆きの歌。「・・・せば~ましを」は、反実仮想。もし・・・だったら~しただろうに。
ミ語法
「ミ語法」とは、形容詞の語幹に語尾「み」を接続した語形を用いる語法。その意味は、「を」を伴うものは「を」が主格を表わし、「み」が原因や理由を表わすと考えられています。現存する文献の用例の大部分は『万葉集』であり、 上代以前に広く用いられたと考えられています。 中古以降は、擬古的表現として和歌にわずかに用いられました。
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について