大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

白玉を手には巻かずに箱のみに・・・巻第7-1324~1325

訓読 >>>

1324
葦(あし)の根のねもころ思ひて結びてし玉の緒(を)といはば人(ひと)解(と)かめやも

1325
白玉(しらたま)を手には巻かずに箱のみに置けりし人ぞ玉(たま)嘆(なげ)かする

 

要旨 >>>

〈1324〉葦(あし)の根のようにしっかり結び合わせた真珠の紐だとあなたが言ったら、それを他人が解ける筈はあるまい。

〈1325〉白玉を手に巻くことなく、箱の中にしまいっぱなしの人が、その白玉を嘆かせているのだ。

 

鑑賞 >>>

 「玉に寄せる」歌。1324の「葦の根の」は、葦が細かく入り組んだ根を張ることから、「ねもころ」の枕詞。「ねもころ」は、なんごろに、心を込めての意。「玉の緒」は、玉を貫き通す紐のことで、固い夫婦の契りの喩え。「人解かめやも」の「人」は他人、「解く」は二人の仲を裂く意、「やも」は反語で、解こうか解きはしない。契りを結んだものの、他人の邪魔によって関係が絶えはしないかと不安に思っている女を励ましている男の歌です。

 1325の「白玉」は、若い女(妻)の喩え。「手には巻かずに」は、共寝をすることもなく、の意。「箱のみに置けりし」は、人目に触れさせずに大切にしながら、少しも顧みることをしなかった、の意の譬喩。「人」は、夫である男。「玉嘆かする」は、玉を嘆かせることだ。愛を示さない夫を恨む妻が詠んだ歌で、自身を「白玉」と言っているのは、妻としてのプライドからの譬喩とされます。一方、若い娘に恋している男が、娘の母親のあまりの厳格さを恨み、嘆いている歌とする見方もあります。

 

 

作者未詳歌

 『万葉集』に収められている歌の半数弱は作者未詳歌で、未詳と明記してあるもの、未詳とも書かれず歌のみ載っているものが2100首余りに及び、とくに多いのが巻7・巻10~14です。なぜこれほど多数の作者未詳歌が必要だったかについて、奈良時代の人々が歌を作るときの参考にする資料としたとする説があります。そのため類歌が多いのだといいます。

 7世紀半ばに宮廷社会に誕生した和歌は、7世紀末に藤原京、8世紀初頭の平城京と、大規模な都が造営され、さらに国家機構が整備されるのに伴って、中・下級官人たちの間に広まっていきました。「作者未詳歌」といわれている作者名を欠く歌は、その大半がそうした階層の人たちの歌とみることができ、東歌と防人歌を除いて方言の歌がほとんどないことから、機内圏のものであることがわかります。

『万葉集』掲載歌の索引