大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

百伝ふ八十の島廻を・・・巻第7-1398~1399

訓読 >>>

1398
楽浪(ささなみ)の志賀津(しがつ)の浦の舟乗りに乗りにし心(こころ)常(つね)忘らえず

1399
百伝(ももづた)ふ八十(やそ)の島廻(しまみ)を漕(こ)ぐ舟に乗りにし心忘れかねつも

 

要旨 >>>

〈1398〉楽浪の志賀津の浦で舟に乗ったように、あの子が乗ってきた私の心は、いつ何時も忘れることはない。

〈1399〉多くの島々を巡って漕ぎ行く舟に乗るように、あの子が乗ってきた私の心は、忘れようにも忘れることができない。

 

鑑賞 >>>

 「舟に寄する歌」。1398の「楽浪」は、琵琶湖の西南岸一帯。「志賀津」は、志賀の港で、今の大津市。「舟乗りに」の「に」は、のごとく。男が女と結ばれたことの譬え。「乗りにし心」は、自分の心に乗り移ってしまった相手の心。深く相手を思うがゆえの表現。「常忘らえず」は、いつの時も忘れられない。かつて関係を持った女に対し、いつもお前を忘れられないでいると言い遣った男の歌です。

 1399の「百伝ふ」は「八十」の枕詞。百まで続く八十の意でかかります。「八十」は、多くの意。「島廻」は、島の周り、島の周りを廻ること。上3句は「乗り」を導く序詞。「乗りにし心」は、上の歌と同じく、自分に乗ってしまった妹の心。「忘れかねつも」は、忘れられないことよ。「かぬ」は、できない意の補助動詞。「つ」は完了の助動詞。「も」は詠嘆の助詞。多くの島々を廻り、すなわち妻を求めての遍歴のなかで、結局はお前一人が忘れられないのだと、相手の女に述懐する男の歌、あるいは、老人の若い盛りのころを回想する歌か。この歌も、琵琶湖で歌われたものと見えます。

 

 

※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について

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