訓読 >>>
橘(たちばな)の下(した)吹く風の香(か)ぐはしき筑波(つくは)の山を恋ひずあらめかも
要旨 >>>
橘の実のなっている木陰を吹く風のように、なつかしい筑波の山を、どうして恋い焦がれずにいられようか。
鑑賞 >>>
常陸国の防人の歌。作者は、助丁の占部広方(うらべのひろかた)。「橘」は、ミカン科の常緑樹で、常世の国の木と伝えられる聖木。初夏に芳香のある白色の花が咲きます。時は1月であるので、ここは熟した実を指したもの。常陸風土記には、行方(なめかた)郡(霞ヶ浦と北浦との間)および香島郡(北浦と鹿島灘との間)には橘の木が生い茂っていることが記されており、また行方郡の新治の洲から筑波山が望見できるとも書かれています。「下吹く風の」の「の」は、~のように。「香ぐはしき」は、香りが霊妙な。「恋ひずあらめかも」の「かも」は反語で、恋い焦がれずにいられようか。