訓読 >>>
2570
かくのみし恋ひば死ぬべみたらちねの母にも告げず止(や)まず通(かよ)はせ
2571
ますらをは友の騒(さわ)きに慰(なぐさ)もる心もあらむ我(われ)そ苦しき
要旨 >>>
〈2570〉こんなに恋い焦がれてばかりいると死んでしまいそうなので、母に打ち明けました。あなた、絶えず通って来て下さい。
〈2571〉男の人は友だちと騒いで憂さを晴らすこともできるでしょう。けれど、女の私はそれもできなくて苦しくてなりません。
鑑賞 >>>
「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。2570の「かくのみし」は、このようにばかり。「し」は、強意の副助詞。「死ぬべみ」は、死んでしまいそうなので。「たらちねの」は「母」の枕詞。「母にも」の「も」は、詠嘆。「告げつ」は、打ち明けた。言外に許しを得たと言っています。
2571の「ますらを」は、勇ましく立派な男子。暗に相手の男を指しています。「友の騒き」は、友との和気あいあいとした付き合い。「心もあらむ」は、こともあろうの意。疎遠がちな夫に対する訴えとともに、社会的な生活をする男に比べ、家庭的生活ばかりしている女の嘆きでもあります。
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について