大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

赤駒を廏に立て黒駒を・・・巻第13-3278~3279

訓読 >>>

3278
赤駒(あかごま)を 廏(うまや)に立て 黒駒(くろこま)を 廏に立てて それを飼ひ 我(わ)が行くごとく 思ひ妻(づま) 心に乗りて 高山(たかやま)の 峰(みね)のたをりに 射目(いめ)立てて 鹿猪(しし)待つごとく 床(とこ)敷(し)きて 我(あ)が待つ君を 犬(いぬ)な吠(ほ)えそね

3279
葦垣(あしかき)の末(すゑ)かき別(わ)けて君(きみ)越(こ)ゆと人にな告(つ)げそ事(こと)はたな知れ

 

要旨 >>>

〈3278〉赤駒を厩に立たせ、黒駒を厩に立たせ、それを世話して、私が乗って行くかのように、いとしい妻が心に乗りかかってくる。(ここまで男性の心情)。高山の嶺のくぼみに射目をたてかけて獲物を待ち伏せするように、床を敷いてあの人を待っているのですから、犬よ吠えないでおくれ(後半は女性の心情)。

〈3279〉葦垣をかきわけてあの人が乗り越えていらっしゃるのだから、人に気づかれないように、事情を察してよく聞き分けて(吠えないで)おくれ。

 

鑑賞 >>>

 3278の前半は夫の心情が歌われ、後半は妻の心情が歌われています。狩場での歌劇の歌詞として唱和されたのではないかとされます。3278の「赤駒」は、栗毛の馬。「廏に立て」は、廏に立たせ。「思ひ妻」は、愛する妻。「たをり」は、くぼんでいる所。「射目」は、獲物を射るために身を隠す道具。「犬な吠えそね」の「な~そね」は、禁止の願望。3279の「末」は、先端。「な告げそ」の「な~そ」は、懇願的な禁止。「たな知る」は、十分に知る。

 なお、長歌にある「鹿猪(しし)」の原文は「十六」となっており、九九(くく)を用いた戯書(ざれがき)となっています。万葉びとの言葉遊びの一端が見られ、同じ「十六」の例は集中5例あり、他にも「二二(し)」が3例、「二五(とを)」が1例、「八十一(くく)」が5例、合計14例存在します。

 

 

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