訓読 >>>
3374
武蔵野(むざしの)に占部(うらへ)肩焼きまさでにも告(の)らぬ君が名(な)占(うら)に出(で)にけり
3375
武蔵野(むざしの)のをぐきが雉(きぎし)立ち別れ去(い)にし宵(よひ)より背(せ)ろに逢(あ)はなふよ
要旨 >>>
〈3374〉武蔵野で占いをして、骨を焼いたら、実際にあなたの名前など口に出さなかったのに、その占いに出てきてしまいました。
〈3375〉武蔵野の窪地に巣食う雉のように、飛び立つように行ってしまったたあの夜から、あの人に逢っていません。
鑑賞 >>>
3374の「武蔵野」は、荒川と多摩川の間の平野。この時代には「むざしの」とにごって発音したようです。「象焼き」は、鹿などの動物の骨を焼き、ひびの具合で吉凶を占うこと。「象焼き」による卜占は、東国地方に限らず広く行われたものらしく、『古事記』にも登場します。「まさでに」は、まざまざ、はっきりの意。この歌は、母親が娘の関係している男の名を知りたがって厳しく問い詰め、娘はとうとう白状してしまったため、相手の男に嘘の言い訳をしている歌とみられています。
3375の「をぐき」は、窪地、洞穴、山峡または山のふところ。「雉(きざし)」は、キジの古名。上2句は、雉が飛び立つ意から「立ち別れ」を導く序詞。「去にし宵より」は、行ってしまった夜から。「背ろ」の「ろ」は「ら」と同意の東語の接尾語。「逢はなふよ」の「なふ」も東国特有語で、逢わないことであるよ。夫は、雑徭か兵士として。雉が飛び立つように旅に出て行ったのでしょうか。夫を慕う妻の悲しみが身に染みて感じられる歌です。
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