大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

東歌(76)・・・巻第14-3415~3416

訓読 >>>

3415
上(かみ)つ毛野(けの)伊香保(いかほ)の沼(ぬま)に植(う)ゑ小水葱(こなぎ)かく恋ひむとや種(たね)求めけむ

3416
上(かみ)つ毛野(けの)可保夜(かほや)が沼(ぬま)のいはゐつら引かばぬれつつ我(あ)をな絶えそね

 

要旨 >>>

〈3415〉上野の伊香保の沼に植えてある小水葱。こんなに恋に苦しもうとして、わざわざ種を求めたわけでもないのに。

〈3416〉上野の可保夜が沼に生えるいわい葛(づら)のように、引き寄せたらほどけて私に寄り添い、決して私との仲を絶やさないでおくれ。

 

鑑賞 >>>

 上野(かみつけの)の国の歌。3415の「伊香保の沼」は、榛名山上の榛名湖とされますが、湖面の標高が1084mもある上に、いろいろ条件が合わないとして、山麓の沼と見る説もあります。「植ゑ小水葱」は、植えてある小水葱。「小水葱」は、夏から初秋にかけて青紫色の小さな花を咲かせる水草ミズアオイの類で、ここは愛する女の譬え。「かく恋ひむとや」は、こんなに恋に苦しもうとして。「や」は、反語。「種求む」の「種」は原因の意で、「種求む」は共寝することの譬え。女と関係を結んだものの、そのために恋の悩みに苦しむことになったことを後悔している男の歌です。

 3416の「可保夜が沼」は、所在未詳。「いはゐつら」は、岩に生える蔓草か。上3句は「引かばぬれつつ」を導く譬喩式序詞。「ぬれつつ」の「ぬる」は、ほどける。「我をな絶えそね」の「な~そ」は、懇願的な禁止で、私との仲を絶やさないでほしい。

 

 

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