大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

流らふる妻吹く風の・・・巻第1-59

訓読 >>>

流(なが)らふる妻(つま)吹く風の寒き夜(よ)に我(わ)が背(せ)の君はひとりか寝(ぬ)らむ

 

要旨 >>>

絶え間なく風が横なぐりに吹きつける寒い夜、私のあの人は、たった独りで寂しく寝ているのでしょうか。

 

鑑賞 >>>

 誉謝女王(よざのおほきみ)の歌。誉謝女王は、『続日本紀』の慶雲3年(706年)6月24日の条に「従四位下で卒」とあるほかは伝未詳。『万葉集』には、この1首のみ。

 「流らふる」は、雨や雪、花びらなどが空から降って移動していく意。第2句の「妻吹く風の」の原文は「妻吹風之」で、家の切妻の部分に横なぐりに吹く風、または「妻風」として「つむじ風」と解する、あるいは「雪」「妾(われ)」の誤字とする見方などがあって、定まっていません。「我が背の君」は、親しみをもって呼ぶ「我が背」と敬意をもって呼ぶ「君」が合わさった形。「らむ」は、現在推量の助動詞。風の寒い夜、行幸に供奉している夫君を思い、都にいる女王が作った歌とされます。次の歌(60)の作者長皇子が思う旅先の「妹」を誉謝女王に擬する説があります。

 

 

『万葉集』掲載歌の索引

各巻の概要