訓読 >>>
松の葉に月はゆつりぬ黄葉(もみちば)の過ぐれや君が逢はぬ夜(よ)多き
要旨 >>>
松の葉越しに月は渡っていき、お待ちしている間にいつしか月も変わってしまった。愛の盛りは過ぎたのでしょうか、あなたに逢えない夜が多くなりましたね。
鑑賞 >>>
題詞に「池辺王(いけへのおほきみ)が宴席で誦詠した歌」とあります。池辺王は、大友皇子・十市皇女の孫で、淡海三船の父。『続日本紀』に、神亀4年(727年)に従五位下を授けられ、天平9年(737年)内匠頭となった記事があり、また淡海三船の卒伝によると、従五位上まで上ったらしいことが知られます。『万葉集』にはこの1首のみ。
「松の葉」に「待つの端(待った挙句)」の意を掛けています。「ゆつり」は、集中「移り」と並び用いられている語で、移りの意。「黄葉の」は「過ぐ」の枕詞。「過ぐ」には時季外れになる意があり、ここは色づいた黄葉が移ろい盛りを過ぎた意によって掛けています。「過ぐれや」の「や」は疑問で、愛の盛りが過ぎたのか、のほか、あの世に行ってしまったのか、などとする解釈もあります。「逢はぬ夜多き」の「多き」は、上の「や」の係り結びで連体形。宴席で誦詠した歌というので、宴会に来なかった人を揶揄して贈ったものとも推測されています。王の自作か古歌なのか、はっきりしません。
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について