大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

我妹子は常世の国に住みけらし・・・巻第4-650

訓読 >>>

我妹子(わぎもこ)は常世(とこよ)の国に住みけらし昔見しより若変(をち)ましにけり

 

要旨 >>>

あなたは不老不死の地に住んでおられたに違いない。昔お目にかかった時よりずっと若くなっていらっしゃる。

 

鑑賞 >>>

 大伴三依(おおとものみより)の歌。大伴三依は、壬申の乱の功臣・大伴御行(おおとものみゆき)の子。大伴旅人と同じ時期に筑紫に赴任したらしく、この歌は後に都に転任した作者が、旧知の坂上郎女に挨拶に出かけた時の歌とされます。「常世の国」は、不老不死の理想郷。「住みけらし」は、住んでいたに違いない。「若変」は、若返ること。集中に例の多い語であり、当時は、常世の国の草を食すと若返り、また月には飲むと若返る水があるなどという信仰がありました。「まし」は、敬語の助動詞。「増し」の意と捉えることも可能。郎女に対するずいぶん大げさで明るい誉め言葉になっていますが、明らかにお世辞です。

 

 

常世の国

 古代人が、海の彼方のきわめて遠い所にあると考えていた想像上の国。記紀風土記の神話伝説にも見え、その殆どは不老不死という特色を有しています。その思想の一部は日本固有の思想に由来するものの、『日本書紀』雄略紀 22年では「蓬莱山」を「とこよのくに」と読ませており、より多くは神仙思想の影響を受けて形成された概念と考えられています。また、常世の国と現世との間には往来の道が開けていると信じていたらしく、垂仁天皇は、田道間守 (たじまもり) に命じて常世国につかわし非時香菓 (ときじくのかくのこのみ:橘のこと) を求めました。さらに、常世国は、死後の世界すなわち黄泉国 (よみのくに) のこととも解されました。

『万葉集』掲載歌の索引