訓読 >>>
705
はねかづら今する妹(いも)を夢(いめ)に見て心のうちに恋ひ渡るかも
706
はねかづら今する妹(いも)はなかりしをいづれの妹(いも)ぞそこばだ恋ひたる
要旨 >>>
〈705〉はねかづらを今や一人前に飾っているあなた、そんなあなたを夢に見て、心ひそかに恋続けています。
〈706〉はねかづらを飾る年頃の娘は、こちらにはいません。いったいどこの娘がそのようにあなたに恋して夢枕に立ったのでしょう。
鑑賞 >>>
705は大伴家持が童女に贈った歌、706が童女が答えた歌。「童女」は、成年に達する前の娘。「はねかずら」は髪飾りとされ、物は残らず記録もないため詳細未詳ながら、成女の儀式(12歳~16歳)として髪に挿したものではないかとされます。「恋ひ渡る」は、恋い続ける。家持は、実際に童女を目の前にして言っているのではなく、自分のことを思ってくれている人が夢に現れるという当時の夢解釈によって想像しています。
706の「そこば」は、そんなにもひどく。「恋ひたる」は、上の「ぞ」の係り結びで連体形。ただ、この返歌は、童女らしい正直な物言いとも言えますが、あまりにピタリと前歌の言葉に即応させた、しかも見事なはねつけ歌であるところから、両首とも家持が創作したのではないかとの見方があります。
古典文法
係助詞
助詞の一種で、いろいろな語に付いて強調や疑問などの意を添え、下の術語の働きに影響を与える(係り結び)。「は・も」の場合は、文節の末尾の活用形は変化しない。
〔例〕か・こそ・ぞ・なむ・や
格助詞
助詞の一種で、体言やそれに準じる語に付いて、その語とほかの語の関係を示す。
〔例〕が・に・にて・の
間投助詞
助詞の一種で、文中や文末の文節に付いて調子を整えたり、余情や強調などの意味を添える。
〔例〕や・を
接続助詞
助詞の一種で、用言や助動詞に付いて前後の語句の意味上の関係を表す。
〔例〕して・つつ・に・ば・ものから
終助詞
助詞の一種で、文末に付いて、疑問・詠嘆・願望などを表す。
〔例〕かし・かな・な・なむ・ばや・もがな
副助詞
助詞の一種で、さまざまな語に付いて、下の語の意味を限定する。
〔例〕さへ・し・だに・
助動詞
用言や体言に付いて、打消しや推量などのいろいろな意味を示す。