大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

海の底沖つ玉藻の名告藻の花・・・巻第7-1290

訓読 >>>

海(わた)の底(そこ)沖つ玉藻(たまも)の名告藻(なのりそ)の花 妹(いも)と我(あ)れとここにしありと名告藻の花

 

要旨 >>>

沖の彼方に靡く美しい名告藻の花よ、愛しいあの子と私とがここにいたとは人には言うなという名の花よ。

 

鑑賞 >>>

 『柿本人麻呂歌集』から、旋頭歌(5・7・7・5・7・7)1首。1290の「海の底」は「沖」の枕詞。「沖つ玉藻の」の「つ」は、上代のみに用いられた古い連体格助詞。「玉」は美称。沖に生える玉藻の。以上2句は「名告藻」の修飾。「名告藻」は、ホンダワラという海藻の古名。「なのりそ」の「なのり」は「名告り」の意にも用いますが、ここでは(二人がここで逢ったことを)人には言うな、の意に用いています。

 この歌について、窪田空穂は次のように解説しています。「男女人目を避けて海辺で密会をしている時の男の歌という形のものである。上代の男女生活にあっては、こうした方法での密会は稀れなことではなく、むしろ一般的なものであった。また海草のなのりそに、な告りそ、すなわち秘密にせよの意を懸けることも一般化されていた。この歌はそれらの上に立ってのもので、そして詠み方も平明なものであるから、謡い物としての典型的なものである。詠み方は平明なばかりでなく、同時に美しく婉曲で、謡い物の率直と露骨を好む傾向とは距離のあるものである。言いかえると謡い物の文芸化されたものである。その意味において注意される歌である」。

 

 

※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について

『万葉集』掲載歌の索引