訓読 >>>
4460
堀江(ほりえ)漕(こ)ぐ伊豆手(いづて)の舟の楫(かぢ)つくめ音(おと)しば立ちぬ水脈(みを)早みかも
4461
堀江(ほりえ)より水脈(みを)さかのぼる楫(かぢ)の音(おと)の間(ま)なくぞ奈良は恋しかりける
4462
舟競(ふなぎほ)ふ堀江(ほりえ)の川の水際(みを)に来居(きゐ)つつ鳴くは都鳥(みやこどり)かも
要旨 >>>
〈4460〉堀江を漕ぐ伊豆造りの舟の、楫つくめがしばしば音を立てる。水脈の流れが速いからだろうか。
〈4461〉堀江の流れを逆のぼる舟の梶の音、その音の絶えないように、絶え間もなく奈良が恋しくてならない。
〈4462〉舟が競うように行き交う堀江の水際に、降りて来て鳴いているのは都鳥であろうか。
鑑賞 >>>
大伴家持の歌。天平勝宝8年(756年)3月、聖武太上天皇の難波行幸に随行し、難波滞在中の3月20日に一人で堀江の景色を眺めて詠んだ歌です。「堀江」は、難波の地の掘割で、現在の大川とされます。左注には「江の辺(ほとり)にて作れる」とあります。
4460の「伊豆手の舟」は、伊豆造りの舟。「楫つくめ」は、艪が舟からはずれないように舷に結び付ける部分とされますが、異説もあります。「水脈」は、水の流れる筋、水路。「速みかも」は、ミ語法による疑問条件。4461の上3句は、舟が流されないように絶えず梶を動かしているところから、「間なく」を導く譬喩式序詞。4462の「舟競ふ」は、舟が競うように漕いでいるさま。「都鳥」は、集中唯一の用例で、ミヤミヤと鳴く声が都を連想させるところから、カモメ科のユリカモメではないかとされます。