大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

橡の解き洗ひ衣のあやしくも・・・巻第7-1314~1315

訓読 >>>

1314
橡(つるはみ)の解(と)き洗ひ衣(きぬ)のあやしくもことに着欲(きほ)しきこの夕(ゆふへ)かも
1315
橘(たちばな)の島にし居(を)れば川遠みさらさず縫(ぬ)ひし我(あ)が下衣(したごろも)

 

要旨 >>>

〈1314〉黒い橡染めで、解いて洗った古い着物を、不思議にもいつもと違って着てみたくてならない、今夜であるよ。

〈1315〉川から遠い橘の島に住んでいるので、十分に水にさらしもしないで縫った私の下着なのです。

 

鑑賞 >>>

 「衣(きぬ)に寄する」歌。1314の「橡」はクヌギの木で、どんぐりを煮た汁で衣を染めた橡染めは、庶民の着物に使われました。「橡の解き洗ひ衣」の「解き洗ひ衣」は、解いて洗った着物で、昔なじんだことのある身分の低い女の譬え。「あやしくもことに」は、不思議なほどいつもと違って。「着欲し」は、共寝をしたい意の譬え。「この夕」は、今夜。「かも」は、詠嘆。現在の恋が辛いからか、昔から関係していた身分の低い女をふと思い出し、懐かしんでいる歌とされます。

 1315の「橘の島にし居れば」の「橘の島」は、草壁皇子の宮地であった奈良県明日香村島庄。「し」は、強意の副助詞。「川遠み」は、川が遠いので。「さらさず縫ひし」は、布をさらさないで衣に縫ってしまった。衣を仕立てる前にはその布を必ずさらすことになっていたのに、それをしなかったというもの。「我が下衣」は、内縁の結婚相手の譬え。十分に確かめずよく洗練されていない相手を選んでしまったことを言っています。男女どちらの歌とも解されますが、「縫ひし」とあるので、女の歌でしょうか。

 

 

※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について

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