大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

雨隠る御笠の山を高みかも・・・巻第6-980

訓読 >>>

雨隠(あまごも)る御笠(みかさ)の山を高みかも月の出(い)で来(こ)ぬ夜(よ)は更(ふ)けにつつ

 

要旨 >>>

御笠の山があまりにも高いからか、月がなかなか出てこない。夜が更けていくというのに。

 

鑑賞 >>>

 安倍朝臣虫麻呂(あべのあそみむしまろ)の「月の歌」1首。安倍虫麻呂は、従四位下・中務大輔。大伴坂上郎女は、虫麻呂の従姉妹にあたります(郎女の母・石川内命婦と、虫麻呂の母・安曇外命婦が姉妹)。虫麻呂の集中の作5首のうち3首は、郎女の作と並べられており、親密な間柄が窺えます。「雨隠る」は、雨の中にこもる笠の意で「御笠」にかかる枕詞。「御笠の山」は、春日山の別名で、連山中の主峰の名。「高みかも」の「高み」は「高し」のミ語法で、高いゆえであろうか。「か」は係助詞で、「出で来ぬ」がその結び。「更けにつつ」は、下降する、衰える意の、クダチツツと訓むものもあります。

 この歌に関して窪田空穂は次のように解説しています。「従前から月に関係した歌はかなりまであったが、大体、妹の家へ通う路を照らすもの、旅の夜を照らすもの、時刻を測るものというように、実生活に利用する上の月で、鑑賞の対象としての月ははとんどなかった。この歌をはじめとしてこれに続く月の歌はすべて鑑覚の月であって、家に居て楽しんで見ているものである。このことは時代的にいうと、奈良朝にはじまったことであって、それが次の平安朝時代に続くのである」。

 

 

※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について

『万葉集』掲載歌の索引