訓読 >>>
去年(こぞ)の春いこじて植ゑし我(わ)がやどの若木(わかき)の梅は花咲きにけり
要旨 >>>
去年の春、地面を掘り起こして移し植えた我が家の庭の若木の梅は、今やっと花を咲かせた。
鑑賞 >>>
阿倍広庭(あべのひろには)の歌。阿倍広庭は、壬申の乱で活躍して後に右大臣となった阿倍御主人(あべのみうし)の子。和銅2年(709年)、正五位下伊予守を振り出しに、霊亀元年(715年)に宮内卿、その後、左大弁、参議を経て、神亀4年(727年)に従三位、中納言。中納言は、大納言を補佐する役として慶雲2年(705年)に再び設けられた令外官。広庭は、『懐風藻』に詩2首、『万葉集』には4首の歌を残しています。天平4年(732年)2月、74歳で没。
「いこじて」の「い」は、強意の接頭語、「こじて」は、根を堀り起こして。「植ゑし」は、移植した意。「梅」は、白梅。心待ちにしていた庭の梅の開花を見た喜びの歌で、奈良朝のころになると、貴族たちの間に造園趣味がかなり広まっていたらしいことが窺えます。また、中国からの舶来の梅は、移植してでも自分の庭に植える価値のある木だと考えていたようです。
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について