大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

秋萩に置きたる露の風吹きて・・・巻第8-1617

訓読 >>>

秋萩(あきはぎ)に置きたる露(つゆ)の風吹きて落つる涙は留(とど)めかねつも

 

要旨 >>>

秋萩に降りた露が風が吹いて落ちるように、はらはらと落ちる私の涙は止めようがありません。

 

鑑賞 >>>

 山口女王(やまぐちのおおきみ)が大伴家持に贈った歌。巻第4-613~617にも同様の歌があり、本来はその歌群の3番目にあった歌とされます。上3句は「落つる」を導く序詞。「留めかねつも」の「も」は、詠嘆。自身の悲しみを象徴的に露に託しており、露を嘆きの息にたとえたり、涙で袖が濡れるという表現は『万葉集』に多く出てきますが、露の玉を涙に見立てた歌は他にないようです。平安朝の和歌では普通に見られる見立てであることから、最も古い例とされ、それだけに新しい感覚による作ということができます。

 この歌は家持の疎遠を嘆いているものですが、他の歌の内容からも、二人の恋は女王の一方的な悲恋に終わったらしくあります。しかしながら、山口女王は、伝未詳ながらも、臣下との結婚には制限を付けられていた皇族だったとみられ(臣下との結婚が認められていたのは5世からの皇族、山口女王は3世以内)、家持にとって恋愛の対象になりうる身分の女性ではなかったはずです。そこで、家持から一定期間の間、歌を習った関係にあったのではないかとの見方があります。

 

 

 

家持の恋人たち

 青春期の家持に相聞歌を贈った、または贈られた女性は次のようになります。

大伴坂上大嬢 ・・・巻第4-581~584、727~755、765~768ほか
笠郎女(笠女郎とも) ・・・巻第3-395~397、巻第4-587~610ほか
山口女王 ・・・巻第4-613~617、巻第8-1617
大神女郎 ・・・巻第4-618、巻第8-1505
中臣女郎 ・・・巻第4-675~679
娘子 ・・・巻第4-691~692
河内百枝娘子 ・・・巻第4-701~702
巫部麻蘇娘子 ・・・巻第4-703~704
日置長枝娘子 ・・・巻第8-1564
妾 ・・・巻第4-462、464~474
娘子 ・・・巻第4-700
童女 ・・・巻第4-705~706
粟田女娘子 ・・・巻第4-707~708
娘子 ・・・巻第4-714~720
紀女郎 ・・・巻第4-762~764、769、775~781ほか
娘子 ・・・巻第4-783
安倍女郎 ・・・巻第8-1631
平群女郎 ・・・巻第17-3931~3942

※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について

『万葉集』掲載歌の索引