大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

霍公鳥いたくな鳴きそ汝が声を・・・巻第8-1465

訓読 >>>

霍公鳥(ほととぎす)いたくな鳴きそ汝(な)が声を五月(さつき)の玉にあへ貫(ぬ)くまでに

 

要旨 >>>

ホトトギスよ、そんなに鳴かないでおくれ。五月五日の薬玉におまえの声を混ぜて紐に通すまでは。

 

鑑賞 >>>

 藤原夫人(ふじはらのぶにん)の歌。「霍公鳥」は、カッコウ科の夏鳥で、陰暦5月、立夏の頃に渡ってくるものと信じられていました。『万葉集』には最も多く詠まれた鳥で、その声が万葉人に賞美されました。「な鳴きそ」の「な~そ」は、懇願的な禁止。「五月の玉」は、五月五日の端午の節句に邪気を払うため、種々の香料を入れた綿の袋に菖蒲や橘花などをつけた緒を垂れて室内にかける風習があり、その緒につける玉のこと。「あへ」は、あわせて。

 五月にならないうちからしきりにホトトギスが鳴くのを制止した歌ですが、ホトトギスの声を愛でる歌は、天武天皇の時代から見え出し、時代が下るにつれて次第に数が増え、奈良時代には夏の景物の代表となりました。また、霍公鳥の声を薬玉として貫こうという類歌も少なくありません。窪田空穂は「一首、美しさとともに女性らしい知性が働き、調べもそれにふさわしく、明るく品位のある歌である」と評しています。

 藤原夫人の「夫人」というのは後宮の職名で、藤原夫人は藤原氏出身の夫人という意味です。ここでは、藤原鎌足の娘・五百重娘(いおえのいらつめ)を指し、大原大刀自(おおはらのおおとじ)とも称せられ、天武天皇の皇后・妃に次ぐ位の「夫人」として仕えました。「夫人」は、光明皇后以前は、皇族以外の出身で望みうる最高の地位でした。天皇との間には新田部皇子(にひたべのみこ)が生まれています。

 

 

『万葉集』掲載歌の索引