大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

今のごと心を常に思へらば・・・巻第8-1653、1655

訓読 >>>

1653
今のごと心を常に思へらばまづ咲く花の地(つち)に散らめやも

1655
高山の菅(すが)の葉しのぎ降る雪の消(け)ぬと言ふべしも恋の繁(しげ)けく

 

要旨 >>>

〈1653〉今のように変わらぬ心をいつも持ち続けているかぎり、他の花にさきがけて咲く梅の花のように、地に散り落ちることがありましょうか、ありはしません。

〈1655〉高山に生えた山菅を押し伏せて降る雪がやがて消えてしまうように、私も死にそうだと言ったらよいほどです、恋の尽きない苦しみは。

 

鑑賞 >>>

 1653は、県犬養娘子(あがたのいぬかひのをとめ)の「梅に依(よ)せて思ひを発(おこ)す歌」1首。県犬養娘子は、伝未詳。『万葉集』にはこの1首のみ。「今のごと」は、今のように。「心を常に思へらば」の「心を思ふ」は、心を持つ意。「まづ咲く花」は、春、他の花にさきがけて咲く梅の花のこと。「地に散らめやも」の「や」は反語で、散ろうか、散りはしない。原文「地尓將落八方」で、「地に落ちめやも」と訓むものもあります。うら若い女性の、初恋の不安を梅の花に寄せて詠んだ歌です。

 1655は、三国真人人足(みくにのまひとひとたり)の歌。「真人」は姓(かばね)。慶雲2年(705年)従五位下養老4年(720年)正五位下。『万葉集』にはこの1首のみ。「しのぐ」は、押し伏せる意。上3句は、意味で「消ぬ」を導く序詞。「消ぬ」は、雪が消えてしまう意と命が絶える意とを兼ねて表しています。「繁けく」は「繁し」のク語法で名詞形。

 

 

万葉集』に詠まれた植物

1位 萩 142首
2位 こうぞ・麻 138首
3位 梅 119首
4位 ひおうぎ 79首
5位 松 77首
6位 藻 74首
7位 橘 69首
8位 稲 57首
9位 すげ・すが 49首
9位 あし 49首

『万葉集』掲載歌の索引