訓読 >>>
筑波嶺(つくはね)に我(わ)が行けりせば霍公鳥(ほととぎす)山彦(やまびこ)響(とよ)め鳴かましやそれ
要旨 >>>
もし私が筑波嶺に登りに行ったとしたら、ホトトギスが山をこだませて鳴いてくれただろうか。
鑑賞 >>>
題詞に「筑波山に登らざりしことを惜しむ」歌とあり、左注に『高橋虫麻呂歌集』に出ている、とある歌です。「筑波嶺」は、筑波山。「行けりせば霍公鳥山彦響め鳴かましや」の「せば~まし」は反実仮想。「山彦」は、山に音声が反響する現象を山に男がいると考えたもの。「それ」は、語調を強めるために添えた語。窪田空穂は、「常陸の国庁にあって、同僚が筑波山に登ったが、聞こうと思ったほととぎすが鳴かなかったと話した時、それに答える心で詠んだものと思われる。作意は、ほととぎすの鳴かなかったのは、自分を誘って同行しなかったからだ。自分がいたら、きっと盛んに鳴いたにちがいない、というので、戯談の形で恨みをいったものである」と説明しています。
なお、常陸の国庁は、茨城郡、今の石岡にあり、筑波山はその西方おおよそ15kmに位置していますから、年中見ることができました。虫麻呂の歌からは、彼は少なくとも3回は筑波山に登っていることになります。