訓読 >>>
言(こと)繁(しげ)み君は来まさず霍公鳥(ほととぎす)汝(な)れだに来(き)鳴け朝戸(あさと)開かむ
要旨 >>>
人の口がうるさいからとあの方はいらっしゃらない。ホトトギスよ、せめてお前だけでも来て鳴いておくれ。朝戸を開けて待っているから。
鑑賞 >>>
大伴四綱(おおとものよつな)が宴席で吟誦した歌で、女の立場になって詠んでいます。「言繁み」は、人の噂がうるさいので。ただし、原文「事繁」とあるので、公務が多いので、と解するものもあります。「来まさず」は「来ず」の尊敬語。「汝れだに」の「だに」は、最小限の願望、せめて~だけでも。「朝戸開かむ」の「朝戸を開く」とは、夜、女に逢いに来た男を朝方に送り出すために朝戸を開けること。ここは逆に、待ちぼうけを食った女がホトトギスを迎えるために朝戸を開くと言っており、そうすることでせめて男を送り出すかのように思いなそう、との意が込められているとされます。
大伴四綱は、天平初年頃に防人司佑として大宰府に仕え、大伴旅人の部下だった人。『万葉集』には5首の短歌を残しており、他にも、巻第4-629のような女の立場での宴席歌があります。宴席歌は、初めは儀礼のものであったのが、次第に興味中心のものに移り変わり、宴の性質にもよりますが、ここの相聞の歌のように、諧謔味を含んだものが喜ばれるようになったとされます。
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について