訓読 >>>
2426
遠山(とほやま)に霞(かすみ)たなびきいや遠(とほ)に妹(いも)が目(め)見ねば我(あ)れ恋ひにけり
2427
宇治川(うぢがは)の瀬々(せぜ)のしき波しくしくに妹(いも)は心に乗りにけるかも
2428
ちはや人(ひと)宇治(うぢ)の渡りの瀬を早み逢はずこそあれ後(のち)も我(わ)が妻
要旨 >>>
〈2426〉遠くの山に霞がたなびいて山が遠く見えるように、妻がますます遠く思われ、逢えないので恋しさが募るばかりだ。
〈2427〉宇治川の瀬々に繰り返し寄せてくる波のように、妻はしきりに私の心に押し寄せてくる。
〈2428〉宇治川の渡し場の流れが早いので、今は逢えないでいるが、後には私の妻になる人なのだ。
鑑賞 >>>
『柿本人麻呂歌集』から「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」3首。2426の上2句は「いや遠に」を導く譬喩式序詞。「いや遠に」は、久しく。「見ねば」の原文「不見」で、ミズテと訓むものもあります。「我れ恋ひにけり」の原文「吾戀」で、ワガコフルカモ、ワ(ア)ハコフルカモなどと訓むものもあります。官人として旅に出ていて妻を思う歌とされます。
2427の「宇治川」は、琵琶湖から流れ出る瀬田川の、京都府内での名。「しき波」は、しきりに寄せて来る波。上2句は「しくしくに」を導く同音反復式序詞です。「しくしくに」は、しきりに。「心に乗る」は、心に入り込んで占拠してしまうこと。旅人として宇治川のほとりにに立っての歌で、しき波の様子を見て妹を思う心を連想しています。。
2428の「ちはや人」は、「宇治」に掛かる枕詞。「ちはや人」は、勇猛で霊威のある人の意で、ウチ(霊威)の意を感じ取って同義的枕詞としてかけたのではないかとされます。「宇治の渡りの瀬を早み」は、実景であるとともに、二人の間にある障害の比喩。「~を~み」は「~が~ので」と理由を表すミ語法。「瀬を早み」の原文「速瀬」で、傾倒せずにハヤキセニと訓むものもあります。この地に住む男の歌で、女との仲に障害が多く、今は逢わずにいるけれど将来は必ず我が妻にしようと誓っています。
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について