大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

ひさかたの雨も降らぬか蓮葉に・・・巻第16-3834、3837

訓読 >>>

3834
梨(なし)棗(なつめ)黍(きみ)に粟(あは)つぎ延(は)ふ葛(くず)の後(のち)も逢はむと葵(あふひ)花咲く

3837
ひさかたの雨も降らぬか蓮葉(はちすば)に溜(た)まれる水の玉に似(に)たる見む

 

要旨 >>>

〈3834〉梨(なし)、棗(なつめ)、黍(きび)に続いて粟(あわ)が実り、それからまた、延び続ける葛(くず)のようにその後も逢いたいと、葵(あおい)の花が咲いている。

〈3837〉久々に雨でも降ってくれないかな。蓮の葉に溜まった水が、玉のようになるのを見たいから。

 

鑑賞 >>>

 3834は作者未詳歌。「延ふ葛の」は、這う葛が別れてもまた逢う意で「後も逢はむ」の枕詞。「葵(あふひ)」は「逢ふ日」を掛けています。宴歌として詠まれたものかもしれません。

 3837は、右兵衛(うひょうえ:禁中の警備や行幸の供奉を掌る役所)に属する人が、あるとき、酒食を用意して府の役人たちをもてなすことがあり、料理はすべて蓮の葉に盛りつけていて、酒宴が進むうち、「その蓮の葉に懸けて歌を作れ」と言われて、即座に作ったという歌。「ひさかたの」は、ここでは「雨」の枕詞。「降らぬか」は、降らないのか、降ってくれよの意。ごく普通の歌ながら、これを詠んだ際の機知を愛されて伝えられた歌のようです。

 

 

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