訓読 >>>
2325
誰(た)が園(その)の梅の花そもひさかたの清き月夜(つくよ)にここだ散りくる
2326
梅の花まづ咲く枝を手折(たを)りてばつとと名付(なづ)けてよそへてむかも
2327
誰(た)が園(その)の梅にかありけむここだくも咲きてあるかも見が欲(ほ)しまでに
2328
来て見べき人もあらなくに我家(わぎへ)なる梅の初花(はつはな)散りぬともよし
2329
雪(ゆき)寒(さむ)み咲きには咲かぬ梅の花よしこのころはかくてもあるがね
要旨 >>>
〈2325〉どこのどなたの園の梅の花だろう。清らかに澄み切った月夜に、こんなにしきりに散ってくるけれど。
〈2326〉梅の花の初咲きの枝を手折ったならば、思う人への贈り物だと言い立てて、人々が噂するだろうか。
〈2327〉どこのどなたの園の梅なのだろう。盛んに咲き誇っていて、まるでいっぱい見てほしいといわんばかりに。
〈2328〉来て見てくれそうな人もいないのだから、我が家の梅の初花よ、咲いて散ってしまったって構わない。
〈2329〉雪が寒いというので、いっこうに咲こうとしない梅の花。それなら、それもよかろう、しばらくそうしているように。
鑑賞 >>>
「花を詠む」歌。2325の「ひさかたの」は「月夜」の枕詞。「ここだ」は、こんなにたくさん、たいそう。2326の「つと」は贈り物。「よそふ」は、関係づける、かこつける意。「てむ」は、きっと~だろう。男女間のことでは、ちょっとしたことでも周囲から好奇心をもたれるという、この時代の社会ならではの煩わしさが窺えます。2327の「けむ」は。過去推量。「かも」は、詠嘆。「見が欲し」は、見たい。2328の「初花」は、その季節に初めて咲く花。2329の「雪寒み」は、雪が寒いので。「あるがね」は、あるがよい。
梅は中国原産の植物で、飛鳥~奈良時代に遣唐使によって伝来したといわれます。当時の梅は白梅だったとされ、まだ珍しく、一般人が目にすることはあまりなかったようです。『 万葉集』では、萩に次いで多い119首が詠まれていて、雪や鶯(うぐいす)と一緒に詠まれた歌が目立ちます。
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について