大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

夢の逢ひは苦しかりけり・・・巻第4-741

訓読 >>>

夢(いめ)の逢ひは苦しかりけりおどろきて掻(か)き探(さぐ)れども手にも触れねば

 

要旨 >>>

夢の中で逢うのは苦しいものです。あなたに逢えたと思って目を覚まして手探りしても、何にも触れることができないので。

 

鑑賞 >>>

 大伴家持坂上大嬢に贈った歌。この歌は、奈良時代に伝来した唐代の伝奇小説『遊仙窟』の影響を受けているとされます。主人公の男が黄河の源流を訪れる途中、神仙の岩窟に迷い込み、仙女の崔十娘(さいじゅうじょう)と兄嫁の王五嫂(おうごそう)の二人の戦争未亡人に一夜の歓待を受け、翌朝名残を惜しんで別れるという筋です。その中の「夢ニ十娘ヲ見ル。驚キ覚メテ之ヲ攬(かいさぐ)ルニ、忽然(たちまち)手ヲ空シウセリ」の文章に拠っています。当時は神仙思想が盛んに行なわれていたらしく、家持はその作中の主人公に擬する気持ちで歌を詠んだようです。