大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

巻第8

もののふの石瀬の社の・・・巻第8-1470

訓読 >>> もののふの石瀬(いはせ)の社(もり)の霍公鳥(ほととぎす)今も鳴かぬか山の常蔭(とかげ)に 要旨 >>> 石瀬の社にいるホトトギスが、今の今鳴いた。この山の陰で。 鑑賞 >>> 刀理宣令(とりのせんりょう)の歌。刀理宣令は渡来系の人…

うち靡く春来るらし・・・巻第8-1422

訓読 >>> うち靡(なび)く春(はる)来(きた)るらし山の際(ま)の遠き木末(こぬれ)の咲きゆく見れば 要旨 >>> どうやら春がやってきたらしい。遠い山際の木々の梢に次々と花が咲いていくのを見みると。 鑑賞 >>> 尾張連(おわりのむらじ)の…

春山の咲きのをゐりに・・・巻第8-1421

訓読 >>> 春山の咲きのをゐりに春菜(はるな)摘(つ)む妹(いも)が白紐(しらひも)見らくしよしも 要旨 >>> 春の山の花が咲き乱れているあたりで菜を摘んでいる子、その子のくっきりした白い紐を見るのはいいものだ。 鑑賞 >>> 尾張連(おわり…

世の常に聞けば苦しき呼子鳥・・・巻第8-1447

訓読 >>> 世の常(つね)に聞けば苦しき呼子鳥(よぶこどり)声なつかしき時にはなりぬ 要旨 >>> ふだんは切なく苦しく聞こえる呼子鳥の、その鳴き声もなつかしく聞かれる春になってきた。 鑑賞 >>> 大伴坂上郎女の歌。「呼子鳥」は、カッコウとさ…

大口の真神の原に降る雪は・・・巻第8-1636

訓読 >>> 大口(おほくち)の真神(まがみ)の原に降る雪はいたくな降りそ家もあらなくに 要旨 >>> 真神の原に降っている雪よ、そんなにひどく降らないでほしい。ここに我が家はないのだから。 鑑賞 >>> 舎人娘子(とねりのおとめ)の歌。舎人娘子…

山の黄葉今夜もか・・・巻第8-1587

訓読 >>> あしひきの山の黄葉(もみちば)今夜(こよひ)もか浮かび行くらむ山川(やまがは)の瀬に 要旨 >>> この山の黄葉は今夜にも散って、浮かんで流れていくことだろうか、山川の瀬に。 鑑賞 >>> 天平10年(738年)ころの冬、大伴書持が橘奈良…

風交り雪は降るとも・・・巻第8-1445

訓読 >>> 風(かぜ)交(まじ)り雪は降るとも実にならぬ我家(わぎへ)の梅を花に散らすな 要旨 >>> 風交りの雪が降ることもあろうが、私の家の、まだ実になっていない梅の花を散らさないでおくれ。 鑑賞 >>> 大伴坂上郎女の歌。作者の娘(坂上大…

百済野の萩の古枝に・・・巻第8-1431

訓読 >>> 百済野(くだらの)の萩(はぎ)の古枝(ふるえ)に春待つと居(を)りし鶯(うぐひす)鳴きにけむかも 要旨 >>> 百済野の萩の古枝に春の訪れを待っていたウグイスは、もう鳴き始めているだろうか。 鑑賞 >>> 山部赤人の歌。「百済野」は…

水鳥の鴨の羽色の・・・巻第8-1451・1616

訓読 >>> 1451水鳥(みづどり)の鴨(かも)の羽色(はいろ)の春山(はるやま)のおほつかなくも思ほゆるかも 1616朝ごとに我(わ)が見る宿(やど)のなでしこの花にも君はありこせぬかも 要旨 >>> 〈1451〉水鳥の鴨の羽色のような春の山が、ぼんや…

秋の雨に濡れつつ居れば・・・巻第8-1573

訓読 >>> 秋の雨に濡(ぬ)れつつ居(を)ればいやしけど我妹(わぎも)が宿(やど)し思ほゆるかも 要旨 >>> 秋の雨に濡れて佇んでいると、粗末ながらも妻の住む家が思われてならない。 鑑賞 >>> 作者は大伴利上(おおとものとしかみ)とあるもの…

大伴家持と紀女郎の歌(6)・・・巻第8-1510

訓読 >>> なでしこは咲きて散りぬと人は言へど我(わ)が標(し)めし野の花にあらめやも 要旨 >>> なでしこは咲いて散ったと人は言いますが、私が標をした野のなでしこでしょうか、そんなはずはない。 鑑賞 >>> 大伴家持が、紀女郎に贈った歌。「…

大伴家持と紀女郎の歌(5)・・・巻第8-1460~1463

訓読 >>> 1460戯奴(わけ)がため我が手もすまに春の野に抜ける茅花(ちばな)そ食(を)して肥えませ 1461昼は咲き夜は恋ひ寝(ぬ)る合歓木(ねぶ)の花(はな)君のみ見めや戯奴(わけ)さへに見よ 1462我が君に戯奴(わけ)は恋ふらし賜(たば)りた…

我が岡にさを鹿来鳴く・・・巻第8-1541~1542

訓読 >>> 1541我(わ)が岡(をか)にさを鹿(しか)来鳴(きな)く初萩(はつはぎ)の花妻(はなづま)どひに来鳴くさを鹿 1542我(わ)が岡(をか)の秋萩(あきはぎ)の花(はな)風をいたみ散るべくなりぬ見む人もがも 要旨 >>> 〈1541〉我が家の…

うら若み人のかざししなでしこが花・・・巻第8-1610

訓読 >>> 高円(たかまと)の秋野(あきの)の上(うへ)のなでしこが花 うら若み人のかざししなでしこが花 要旨 >>> 高円の秋野に咲いたナデシコの花。初々しいのでどなたかが挿頭になさった、そのナデシコの花。 鑑賞 >>> 丹生女王(にうのおおき…

波の上ゆ見ゆる小島の雲隠り・・・巻第8-1453~1455

訓読 >>> 1453玉たすき 懸(か)けぬ時なく 息の緒(を)に 我(あ)が思ふ君は うつせみの 世の人なれば 大君(おほきみ)の 命(みこよ)畏(かしこ)み 夕(ゆふ)されば 鶴(たづ)が妻呼ぶ 難波潟(なにはがた) 御津(みつ)の崎より 大船(おほぶ…

ゆりと言へるは否と言ふに似る・・・巻第8-1503

訓読 >>> 我妹子(わぎもこ)が家(いへ)の垣内(かきつ)のさ百合花(ゆりばな)ゆりと言へるは否(いな)と言ふに似る 要旨 >>> あなたの家の垣根の内に咲いている百合の花、その名のように、ゆり(後で)と言っているのは、嫌だと言っているように…

妻呼ぶ声のともしくもあるを・・・巻第8-1562~1563

訓読 >>> 1562誰(たれ)聞きつこゆ鳴き渡る雁(かり)がねの妻呼ぶ声のともしくもあるを1563聞きつやと妹(いも)が問はせる雁(かり)がねはまことも遠く雲隠(くもがく)るなり 要旨 >>> 〈1562〉どなたかお聞きでしょうか、ここから鳴き渡って行く…

国のはたてに咲きにける桜の花の・・・巻第8-1429~1430

訓読 >>> 1429娘子(をとめ)らが かざしのために 風流士(みやびを)の 縵(かづら)のためと 敷きませる 国のはたてに 咲きにける 桜の花の にほひはもあなに1430去年(こぞ)の春(はる)逢へりし君に恋ひにてし桜の花は迎へ来(く)らしも 要旨 >>…

花なる時に逢はましものを・・・巻第8-1492

訓読 >>> 君が家の花橘(はなたちばな)は成りにけり花なる時に逢はましものを 要旨 >>> あなたの家の花橘は、もう実になってしまったのですね。花の咲いているうちにお逢いしたかったのに・・・。 鑑賞 >>> 作者は遊行女婦とだけあり、名前は分かりま…

恋しけば形見にせむと・・・巻第8-1471

訓読 >>> 恋しけば形見(かたみ)にせむと我(わ)がやどに植ゑし藤波(ふぢなみ)今咲きにけり 要旨 >>> 恋しくなったら、その人を思い出すよすがにしようと、私の庭に増えた藤の花が、今ようやく咲いた。 鑑賞 >>> 山部赤人の歌。「恋しけば」は…

神奈備の磐瀬の杜の霍公鳥・・・巻第8-1466

訓読 >>> 神奈備(かむなび)の磐瀬(いはせ)の杜(もり)の霍公鳥(ほととぎす)毛無(けなし)の岳(をか)に何時(いつ)か来鳴かむ 要旨 >>> 神奈備の岩瀬の森で鳴いているほととぎすよ、自分の住んでいる毛無の岡には一向に声が聞こえないが、い…

含めりと言ひし梅が枝・・・巻第8-1436~1437

訓読 >>> 1436含(ふふ)めりと言ひし梅が枝(え)今朝(けさ)降りし沫雪(あわゆき)にあひて咲きぬらむかも 1437霞(かすみ)立つ春日(かすが)の里の梅の花山のあらしに散りこすなゆめ 要旨 >>> 〈1436〉蕾がふくらんでいると人が言っていた、そ…

大伴家持と大伴坂上郎女の歌・・・巻第8-1619~1620

訓読 >>> 1619玉桙(たまほこ)の道は遠けどはしきやし妹(いも)を相(あひ)見に出でてぞ我(あ)が来(こ)し1620あらたまの月立つまでに来ませねば夢(いめ)にし見つつ思ひそ我(あ)がせし 要旨 >>> 〈1619〉道のりは遠くても、いとおしいあなた…

手もすまに植ゑし萩にや・・・巻第8-1633~1635

訓読 >>> 1633手もすまに植ゑし萩(はぎ)にやかへりては見れども飽(あ)かず心 尽(つく)さむ 1634衣手(ころもで)に水渋(みしぶ)付くまで植ゑし田を引板(ひきた)我が延(は)へまもれる苦し 1635佐保川(さほがは)の水を堰(せ)き上げて植ゑし…

沫雪のほどろほどろに降り敷しけば・・・巻第8-1639~1640

訓読 >>> 1639沫雪(あわゆき)のほどろほどろに降り敷しけば奈良の都し思ほゆるかも 1640我(わ)が岡(をか)に盛りに咲ける梅の花残れる雪をまがへつるかも 要旨 >>> 〈1639〉淡雪がうっすらと地面に降り積もると、奈良の都が思われてならない。 〈…

真木の上に降り置ける雪のしくしくも・・・巻第8-1659

訓読 >>> 真木(まき)の上(うへ)に降り置ける雪のしくしくも思ほゆるかもさ夜(よ)問(と)へ我(わ)が背(せ) 要旨 >>> 真木の上に降り積もる雪のように、絶え間なくあなたのことが思われてなりません。今夜いらして下さい。 鑑賞 >>> 作者…

十月時雨にあへる黄葉の・・・巻第8-1590

訓読 >>> 十月(かむなづき)時雨(しぐれ)にあへる黄葉(もみちば)の吹かば散りなむ風のまにまに 要旨 >>> 十月の時雨にあって色づいたもみじの葉は、風が吹いたらそのままにに散ってしまうことだろう。 鑑賞 >>> 大伴池主(おおとものいけぬし…

めづらしき君が家なる花すすき・・・巻第8-1600~1601

訓読 >>> 1600妻恋(つまご)ひに鹿(か)鳴く山辺(やまへ)の秋萩(あきはぎ)は露霜(つゆしも)寒(さむ)み盛り過ぎゆく 1601めづらしき君が家(いへ)なる花すすき穂(ほ)に出(い)づる秋の過ぐらく惜(を)しも 要旨 >>> 〈1600〉妻を恋い慕…

穂積皇子と但馬皇女の歌・・・巻第8-1513~1515

訓読 >>> 1513今朝(けさ)の朝け雁(かり)が音(ね)聞きつ春日山(かすがやま)もみちにけらし我(あ)がこころ痛し 1514秋萩(あきはぎ)は咲くべくあらし我(わ)が屋戸(やど)の浅茅(あさぢ)が花の散りゆく見れば 1515言(こと)繁(しげ)き里…

経もなく緯も定めず・・・巻第8-1512

訓読 >>> 経(たて)もなく緯(ぬき)も定めず娘子(をとめ)らが織る黄葉(もみちば)に霜な降りそね 要旨 >>> 経糸もなく横糸もこしらえないで、色とりどりに娘たちが織る美しいもみじの葉に、霜よ降らないでおくれ。 鑑賞 >>> 大津皇子(おおつ…