大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

巻第11

海原の道に乗りてや・・・巻第11-2367

訓読 >>> 海原(うなはら)の道に乗りてや我(あ)が恋ひ居(を)らむ 大船のゆたにあるらむ人の子ゆゑに 要旨 >>> 大海原の船路に乗って行方を託すように、私は苦しんでいなければならないのか。大船に乗ってゆったり構えているだろうあの子のせいで…

駅路に引き舟渡し直乗りに・・・巻第11-2748~2749

訓読 >>> 2748大船(おほぶね)に葦荷(あしに)刈り積みしみみにも妹(いも)は心に乗りにけるかも 2749駅路(はゆまぢ)に引き舟渡し直(ただ)乗りに妹(いも)は心に乗りにけるかも 要旨 >>> 〈2748〉大船に刈り取った葦をどっさり積んだように、…

朱らひく膚に触れずて・・・巻第11-2399

訓読 >>> 朱(あか)らひく膚(はだ)に触れずて寝たれども心を異(け)しく我が念(も)はなくに 要旨 >>> 今夜はお前の美しい肌にも触れずに一人寝したが、それでも決してお前以外の人を思っているわけではないからね。 鑑賞 >>> 「正述心緒(あ…

色に出でて恋ひば・・・巻第11-2566

訓読 >>> 色に出でて恋ひば人見て知りぬべし心のうちの隠(こも)り妻はも 要旨 >>> 顔色に出して恋い慕ったなら、人が見咎めて知るだろう、心のうちの隠し妻のことを。 鑑賞 >>> 「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。「色に出でて」は、…

誰れそこのわが屋戸来喚ぶ・・・巻第11-2527

訓読 >>> 誰(た)れそこのわが屋戸(やど)来(き)喚(よ)ぶたらちねの母にころはえ物思(ものも)ふわれを 要旨 >>> 誰なんですか? この家に来て私の名前を呼ぶのは。たった今お母さんに叱られて、物思いにふけっているというのに。 鑑賞 >>> …

笠なしと人には言ひて・・・巻第11-2684

訓読 >>> 笠なしと人には言ひて雨(あま)障(つつ)み留(と)まりし君が姿し思ほゆ 要旨 >>> 笠がないのでと人には言って、雨宿りして泊まっていったあなたの姿が思い出されます。 鑑賞 >>> 「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」。「人には…

燈の影に輝ふ・・・巻第11-2642

訓読 >>> 燈(ともしび)の影に輝(かがよ)ふうつせみの妹(いも)が笑(ゑ)まひし面影(おもかげ)に見ゆ 要旨 >>> 燈火の光りにきらめいていたあの娘の笑顔が、今も面影に現れて見えることだ。 鑑賞 >>> 「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌…

若草の新手枕をまきそめて・・・巻第11-2542

訓読 >>> 若草の新手枕(にひたまくら)をまきそめて夜(よ)をや隔てむ憎くあらなくに 要旨 >>> 新妻の手枕をまき始めて、これから幾夜も逢わずにいられようか、可愛くて仕方ないのに。 鑑賞 >>> 「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。「…

春柳葛城山に立つ雲の・・・巻第11-2453

訓読 >>> 春柳(はるやなぎ)葛城山(かづらきやま)に立つ雲の立ちても居(ゐ)ても妹(いも)をしぞ思ふ 要旨 >>> 春柳をかずらにする葛城山に湧き立つ雲のように、立っても座っても妻のことが思われてならない。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』か…

朝戸出の君が足結を・・・巻第11-2357

訓読 >>> 朝戸出(あさとで)の君が足結(あゆひ)を濡らす露原(つゆはら) 早く起き出でつつ我(わ)れも裳裾(もすそ)濡らさな 要旨 >>> 朝、戸を出てお帰りになるあなたの足許を濡らす露の原。私も早起きして、あなたに連れ添って出て、裳裾を濡…

朝月の日向黄楊櫛・・・巻第11-2500

訓読 >>> 朝月(あさづき)の日向(ひむか)黄楊櫛(つげくし)古(ふ)りぬれど何しか君が見れど飽かざらむ 要旨 >>> 朝の月が日に向かうという、日向産の使い古した黄楊櫛(つげぐし)のように、私たちの仲もずいぶん古くなってしまいましたが、どう…

うち日さす宮道を人は・・・巻第11-2382

訓読 >>> うち日さす宮道(みやぢ)を人は満ち行けど我(あ)が思ふ君はただひとりのみ 要旨 >>> 都大路を人が溢れるほどに往来しているけれど、私が思いを寄せるお方はたったお一人っきりです。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から「正述心緒(あり…

我れゆ後生まれむ人は・・・巻第11-2375~2376

訓読 >>> 2375我(わ)れゆ後(のち)生まれむ人は我(あ)がごとく恋する道に逢(あ)ひこすなゆめ2376ますらをの現(うつ)し心(ごころ)も我(わ)れはなし夜昼(よるひる)といはず恋ひしわたれば2377何せむに命(いのち)継ぎけむ我妹子(わぎもこ…

うち鼻ひ鼻をぞひつる・・・巻第11-2637

訓読 >>> うち鼻(はな)ひ鼻をぞひつる剣大刀(つるぎたち)身に添ふ妹(いも)し思ひけらしも 要旨 >>> くしゃみが出る、またくしゃみが出る。どうやら、腰に帯びる剣大刀のようにいつも寄り添ってくれている妻が、私のことを思ってくれているらしい…

夕されば君来まさむと・・・巻第11-2588

訓読 >>> 夕(ゆふ)されば君(きみ)来(き)まさむと待ちし夜(よ)のなごりぞ今も寐寝(いね)かてにする 要旨 >>> 夕方になると、あなたがいらっしゃるだろうとお待ちしていた夜の名残なのですね、今もなかなか寝つかれないのは。 鑑賞 >>> 「…

成らむや君と問ひし子らはも・・・巻第11-2489

訓読 >>> 橘(たちばな)の本(もと)に我(わ)を立て下枝(しづえ)取り成(な)らむや君と問ひし子らはも 要旨 >>> 橘の木の下に私を向かい合って立たせて、下枝をつかみ、この橘のように私たちの仲も実るでしょうか、と問いかけたあの子だったのに…

我が玉にせむ知れる時だに・・・巻第11-2446~2447

訓読 >>> 2446白玉(しらたま)を巻(ま)きてぞ持てる今よりは我(わ)が玉にせむ知れる時だに2447白玉(しらたま)を手に巻(ま)きしより忘れじと思ひけらくは何か終(をは)らむ 要旨 >>> 〈2446〉白玉を腕に巻いている今からは、私だけの玉にしよ…

たらちねの母が手放れ斯くばかり・・・巻第11-2368

訓読 >>> たらちねの母が手放れ斯(か)くばかり術(すべ)なき事(こと)はいまだ為(せ)なくに 要旨 >>> 物心がつき、母の手を離れてから、これほどどうしていいか分からないことは、未だしたことがありません。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』か…

相見ては面隠さるるものからに・・・巻第11-2554

訓読 >>> 相(あひ)見ては面(おも)隠さるるものからに継(つ)ぎて見まくの欲(ほ)しき君かも 要旨 >>> 顔を合わせると、恥ずかしくて顔を隠したくなるのですが、それなのに、すぐにまた見たいと思う、あなたなのです。 鑑賞 >>> 結婚後間もな…

我が身は千たび死に返らまし・・・巻第11-2389~2391

訓読 >>> 2389ぬばたまのこの夜(よ)な明けそ赤らひく朝(あさ)行く君を待たば苦しも 2390恋するに死(しに)するものにあらませば我(あ)が身は千(ち)たび死に返(かへ)らまし 2391玉かぎる昨日(きのふ)の夕(ゆふへ)見しものを今日(けふ)の…

君が馬の音ぞする・・・巻第11-2510~2512

訓読 >>> 2510赤駒(あかごま)が足掻(あが)速けば雲居(くもゐ)にも隠(かく)り行かむぞ袖(そで)まけ我妹(わぎも)2511こもりくの豊泊瀬道(とよはつせぢ)は常滑(とこなめ)のかしこき道ぞ汝(な)が心ゆめ2512味酒(うまさけ)の三諸(みもろ…

時守の打ち鳴す鼓数みみれば・・・巻第11-2641

訓読 >>> 時守(ときもり)の打ち鳴す鼓(つづみ)数(よ)みみれば時にはなりぬ逢はなくもあやし 要旨 >>> 時守の打ち鳴らす太鼓の音を数えてみると、もうその時刻になった。なのにあの方が逢いにやってこないのはおかしい。 鑑賞 >>> 「時守」は…

偽も似つきてぞする・・・巻第11-2572

訓読 >>> 偽(いつはり)も似つきてぞする何時(いつ)よりか見ぬ人恋ふに人の死(しに)せし 要旨 >>> 嘘をおっしゃるのもいい加減になさいまし。まだ一度もお逢いしたことなどないのに焦がれ死にするなんて。何時の世の中に、そんな人がいましたか?…

妹が袂をまかぬ夜もありき・・・巻第11-2547

訓読 >>> 斯(か)くばかり恋ひむものぞと念(おも)はねば妹(いも)が袂(たもと)をまかぬ夜(よ)もありき 要旨 >>> こんなに恋しくなるとは思わなかったから、一緒にいても、お前と寝ない夜もあった。 鑑賞 >>> 「妹が袂をまかぬ」は、妻の手…

見わたせば近き渡りをた廻り・・・巻第11-2379

訓読 >>> 見わたせば近き渡りをた廻(もとほ)り今か来(き)ますと恋ひつつぞ居(を)る 要旨 >>> 見渡すと、近い渡り場所なのに、回り道をしながらあなたがいらっしゃるのを、今か今かと待ち焦がれています。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から「…

振分の髪を短み・・・巻第11-2540

訓読 >>> 振分(ふりわけ)の髪を短(みじか)み春草(はるくさ)を髪に束(た)くらむ妹(いも)をしぞおもふ 要旨 >>> あの娘は短い振分髪で、まだ結えないので、春草を足して髪に束ねてでもいるだろうか、可愛くてあどけないあの娘のことが恋しくし…

千江の浦廻の木積なす・・・巻第11-2724

訓読 >>> 秋風(あきかぜ)の千江(ちえ)の浦廻(うらみ)の木積(こつみ)なす心は寄りぬ後(のち)は知らねど 要旨 >>> 秋風が吹いて木の屑が千江の浜辺に打ち寄せられるように、私の心はあなたに寄せられました。行く末を知ることはできないけれど…

誰ぞ彼と問はば答へむ・・・巻第11-2545

訓読 >>> 誰(た)そ彼(かれ)と問はば答へむ術(すべ)をなみ君が使(つかひ)を帰しやりつも 要旨 >>> あの人は誰かと問われても、答えようがないので、あなたからの使いをそのまま帰してしまいました。 鑑賞 >>> 男との関係を家人に秘密にして…

吾が念ふ妹は早も死ねやも・・・巻第11-2355

訓読 >>> 愛(うつく)しと吾(わ)が念(も)ふ妹(いも)は早(はや)も死ねやも 生けりとも吾(われ)に依(よ)るべしと人の言はなくに 要旨 >>> 愛しく思うあの女は、いっそのこと早く死ねばいい。生きていても「私に靡くだろう」と誰も言ってく…

紐の片方ぞ床に落ちにける・・・巻第11-2356

訓読 >>> 高麗錦(こまにしき)紐(ひも)の片方(かたへ)ぞ床(とこ)に落ちにける 明日の夜(よ)し来(き)なむと言はば取り置きて待たむ 要旨 >>> 結んだはずの高麗錦の紐の片方が床に落ちていました。明日の夜、また来て下さるなら取って置きま…